子どもの夢
翌日、綺麗になった身体で宿を出る。
図書館に行って地形を把握し、海を目指して歩く。
最初歩いていた通りはそのまま木材の色を生かした外壁をしていたけれど、海が近づくにつれ、白く眩しい景色になっていく。毛綿が紛れたら分からなくなってしまいそうなほど真っ白。
「勇者さまー!」
小さい子に手を振られ声をかけられる。老人に頭を下げられる。大人に横目で見られる。
誰も見向きもしたがらなかった昨日とは真逆に位置する。
海に着いて、脱いだ靴を片手で持ち、貝殻を拾い見せながら毛綿と一緒に波打ち際を歩く。
「勇者さま! 一緒に遊ぼ!」
砂で汚れた子ども達が私の服を引っ張って声をかけてくる。
そんな子ども達の身長に合わせる為に、屈んでむしろ自分が目線を上げるようにする。
「なにをして遊ぶの?」
「お城作ってるの! 勇者さまも作ろう!」
手を引かれるがままに私は子ども達の輪に入る。
「また崩れた〜!」
「少し水を含んで砂を叩くと固くなるよ」
実践して、トンネルを作っても崩れることのない土台を作ってみせる。
「すごい! 勇者さま物知り!」
「私も昔、よくお城作りやったから。でも、完成したことないんだよね。いつも崩れるか、帰らされるかで。だから、今度は皆も作って、崩れたお城より立派なの作ろう」
皆張り切って、精一杯身体を汚しながら、作っている。
崩れそうなところはこっそりスキルで補強して、子どもにしたら大きな城が出来上がっていく。
「ねえー勇者さま。それなーに?」
女の子が私の頭に乗っている毛綿を指した。
「なんていうんだろう。私の仲間……かな。毛綿っていうの。魔王を倒した時も一緒だったんだよ」
「おー! すごい!」
見せて見せてと皆が毛綿に顔を近づける。それにびっくりしたのか、毛綿は私の服の中に潜り込む。
「いなくなっちゃった〜」
「皆に見られて恥ずかしくなっちゃったんだよ」
「じゃあ、このお城けわたのお城にする! お城にいる人は皆に見られるの慣れてるもんね!」
その無垢な言葉に、社会の闇が覗き見える気がする。でも、子どもの世界にそんなのを持ち込んじゃいけない。ただ純粋に、善意だけを受け取る。
「ありがとう。じゃあ、立派なの作って毛綿に喜んでもらおう」
「うん!」
日が暮れ始めると同時に砂のお城は完成した。毛綿をお城に乗せると、皆達成感で喜んでいた。
でも、子どもの時間はもう終わりが来ていたようで、大人が帰るよと声を張り上げる。
たしかに、子どもが外を歩くには十分暗いと言えるかもしれない。もしかしたら、勇者がついていたからこの時間まで許されていたのかも。
子ども達はバイバーイと私と毛綿に手を振って、大人に手を引かれて去っていく。
私も見えなくなるまで小さく手を振る。
今日の宿はどうしようかと、暗くなってもまだ海辺に座っていた。
満点の星空が海に反射して、擬似的に三百六十度全てが夜を照らす光で満ちていた。
「すごいね、けーちゃん。良いもの見れたね」
皆で作った砂のお城は満ちる海に飲み込まれて崩れていく。
最初はほんの少しずつ削れていたのに、途中で倒れて一気に崩れ、次の瞬間にはお城の形は無くなっていた。何かがあった盛り上がりのみだけが、お城があった過去を示している。
「行こうか」
夜の海は何が出てくるか分からない。勇者が必要になる前に、私はその場を去った。




