第25話 消印一通目
文書名、私信(検閲済)。作成者、ロンパリ訓練基地・整備科補助員、モリバン・アワセ。宛先、ひろし・ただの、ヒロミ・フトウの二名。月中立圏、艦の郵便室経由で受領。編集なし(原文のまま転記)。転載許可欄は、空欄のまま。
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前略。ロンパリ基地の売店の便箋が三色しかなく、いちばんましな灰色にしました。モリバンです。覚えていますか? 訓練で四十人いたうちの、整備適性で残留になった点呼番号二十六番です。覚えていなくても、この手紙は最後まで読んでください。読んだかどうか、いつか確認しに行きます。
そちらの噂は、こちらにも届いています。宣戦映像に映っていた二人が巡回で敵のエースと会って、全員で生きて帰ったこと。艦隊の追撃戦があって、補給部隊に負傷者が出たこと。噂を聞くたびにハラハラします。
ところで、ロンパリ基地は変わり始めました。
一つ。訓練の日程表が改訂されました。あの四日目の事故のあと、シゴキ教官が訓練停止を上申して査定を落とした話は、訓練中にあったと思います。その査定の紙が、審査会でひっくり返ったそうです。「停止上申は、適正だった」と。日程表の綴じ込みに新しい一枚が増えました。題は「中止基準」。教官たちはあれを「シゴキの一枚」と呼んでいます。本人は嫌がっています、嫌がる顔は相変わらずこの世の終わりです。嫌がりながら、その一枚をいちばん厳しく運用しているのも本人です。
二つ。整備科に出撃名簿と搭乗記録の照合、という仕事が新設されました。名簿にいない人が機体に乗っていないか、毎朝、紙で確認します。私が、その係になりました。毎朝、始業前の三十分、名簿と機体を見比べています。地味です。
三つ。ここからは、基地の話ではなく、人の話です。
オリル・ミチオは、家の漁協にいます。先週、基地に魚を売りに来ました。軍納入の入札に、ちゃんと正規の書類で通ってきたのが、あいつらしいところです。ひろし、あなたの宣言のことを聞かれたので、「まだ主人公を、やっているらしい」と答えておきました。魚は、うまかったです。当たり前ですが、手紙に魚はつけられませんでした。
ハタケ・ミノリは、州都の軍病院で、右腕の腱と関節を、機械の部品で作り直してもらいました。いまは、リハビリ病棟から通いで、管制課の補助に出ています。操縦桿は、もう握れませんが、管制卓の指示棒は握れます。今度はそちらで高みを目指すようです。
【基地検閲による墨塗り段落】
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四十人は、いま、三十九か所にいます。あなたたち二人が同じ艦にいるぶん、場所は一つ減ります。──公式の名簿は、もっと少ない数を載せています。辞退した者を引くからです。私は、四十で数えます。定期的に数えて、こうして報告します。頼まれていませんが数えたいのです。
草々。
セッテイ区の二十三親等の親戚の叔母が旗艦に乗ったと聞きました。会ったら仲良くしてやってください。
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文書名、艦内郵便室・発送控。作成者、〈グランドリーム〉郵便係。
基地宛て私信、二通、受付。差出人、ひろし・ただの(二枚。字は、係の判読限界に近い。一枚目の頭に、辛うじて「まだ主人公をやってる」と読める一行)。ヒロミ・フトウ(五枚。観測記録の写し)




