村の変化と食事の変化
これまでは、ケイオス村の住人たちは探索者たちに対して一歩距離を置いて見ているような感じだった。
これまで村にはいなかった魔物と戦う荒くれ者。
武器を持ち、防具を身に纏い、魔物の死骸を持ち帰り、酒と食事でバカ騒ぎをする。
村に迫る危機に対応して働いてくれているという存在ではなく、村にやってきた無法者のような印象を持っていた人は決して少なくないのではないだろうか。
それはある意味では仕方がないことだと思う。
これまでは、村にある魔物避けの効果がきちんと機能していたことで、本当にごくまれに魔物が村に近づいてくることはあったようだが、基本的には安全な土地だったのだ。
それに、魔物が注連縄を越えて村に近づいてきているという情報を最初に持ち帰ってきたのが、まだ子どもである俺だというのもその一端になっているかもしれない。
本当に魔物避けの効果が弱まっているかもわからないのに、子ども一人が魔物を見たと騒ぎ、その結果よそ者がやってくる事態になった。
探索者の数が増えても、そのリーダー格のブレナンがきちんと全体を締めてくれて治安が劇的に悪くなったわけではない。
探索者が集まってきたことで商人連中が村に来る機会が増えて景気が良くなっても、大多数の村人にとってはまだまだ他人事に過ぎなかったわけだ。
それが、実際に魔王種を見つけたという報告を貴族家に連なるブレナンが行い、村の危機が決定的なものとなった。
男爵家よりも上位の貴族がなんらかの動きを見せなければ、この村は滅びの道を歩むことになる。
そうなっても、まだ実際には魔物が村を襲ったわけでもないのでこの地に残る村人というのは、厳しい言い方をすれば、危機意識がないとも言える。
あるいは当事者意識がないと言い換えてもいいだろう。
だが、そんな雰囲気が変わってきたように最近は感じる。
ガウェイン先生のおかげだ。
俺が作った地図をもとに学生たちにも販売させ、そして、薬や消耗品など魔境で使用することの多い物品を村人たちに作ってもらうようにお願いした。
今までは商人を通してしか探索者と関係を持つことが無かった村人たちも、自分たちが作ったものを探索者たちが購入して魔境探索に向かい、そして魔物を倒して帰ってくる光景を見る。
このことで、村人も探索者と一緒に魔境の問題に向き合うことになったのだ。
魔王種が倒せるとまでは考えていないだろう。
が、少しでも魔物の数を減らすことができれば村が滅ぶなんて最悪の未来を回避できるかもしれない。
それどころか、自分たちが作った商品が商人たちの目にも留まり、売れることでお金を稼ぐこともできる。
そんな雰囲気が出来上がった。
正直、すごいと思う。
危険な魔王種が出たということで、この村の人口は間違いなく減ったのだ。
それにより、どこかどんよりした雰囲気が村全体を覆っていた。
それが確実に変わってきた。
少し前の景気の良さとは違う、自分たちの力でこの村を守ろうという気概を感じられるようになってきた。
「我、この命を糧とし、力を得ん。……うまい」
そんな俺はというと、最近は魔物食ブームが個人的に到来していた。
これまでも、魔物の肉というのを食べたことは何度もある。
が、最近はさらに積極的に魔物の肉を食べるようにしていた。
今食べているのは、突撃猪という魔物の肉だ。
クソでかい猪の魔物が巨大な牙を向けながら全速力で突撃してくるという危険極まりない相手だが、こいつの肉を森の中で食っている。
本当は危ない行為だ。
森の中で肉を焼いて食べるなんて臭いがするし、それを感知して魔物が近づいてくるかもしれない。
が、そのリスクを承知で食べる。
しっかりと味わう時間も調理もできないので、簡単に焼いて調味料をふっただけだが、それでもこの突撃猪の肉はうまい。
ゆっくりと味わうこともせずに、顎に力を入れて噛み切り、そのまま飲み込んでいく。
その光景は、人によってはのどに詰まらせないか心配になるくらいだろう。
なぜ、こんなふうに魔物の肉を食べているのかといえば、強くなりたいからだ。
魔物の体から取れるものには魔石があり、貴族などはその魔石を使って魔術刻印を鍛えたりすることで強くなるらしい。
が、俺はそれができない。
魔術刻印なんてものを持っていないし、魔石はマジックバッグやノクジルアックスを育てるために必要だからだ。
ならば、ほかに体を強くするためにどうすればいいか。
それは、これまでもやってきたように祝詞を唱えて食事をするということだった。
普通の食事でも祝詞を唱えて食べると体内に闘気が満ちる。
また、森で薬草などを採取してそれを煎じて飲むときにも祝詞を唱えてから服用すると、より闘気が満ちた。
それを魔物肉でもやってみたのだ。
なぜだかわからないが、魔物肉を祝詞を唱えて食べると体内にため込める闘気の量が増える気がする。
なんとなくの感覚だがそう感じた。
これまでは一定量で満杯になって、お腹の中で沈殿してしまうこともあったが、魔物を食べればさらに追加で満たせるようなのだ。
大丈夫だよな?
俺が魔物になる、なんてことないよな?
そんなことを考えてしまうが、今更考えてもしょうがないか。
すでにやってしまっているし、体調が悪くなっているわけでもない。
そんなわけで、俺は魔境の森で道を切り開き、地図を作り、薬草などを採取しながら魔物を狩って、それを食べるという野蛮な未開の人間のような生活を送っていたのだった。
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