巻き込む
「うーん、あんまり売れ行きがいいってわけにはいかないみたいだね。でも、悪くはない、か」
俺が作った魔境の地図。
それを学校に通う子どもたちに書き写させて、ガウェイン先生に販売を頼んだ。
その地図は、探索者たちの間でそれなりに評判になった。
魔物がいる魔境の森に入る探索者からすると、地図や魔物の情報は、自分の命を守るためにも欠かせないからだ。
そんなわけで地図は売れはしたのだけれど、だからといって学校の運営資金に影響を与えるほどの金額になることはなかった。
まあ、考えてみれば当たり前か。
この村に来ている探索者は数が限られているんだ。
全員が購入するわけでもないし、仮に全員が買ったとしても、大きな利益にはならないだろう。
むしろ、ガウェイン先生はうまく地図を売ってくれたほうだと思う。
適当な金額を設定してそれが割高だった場合には、探索者の誰かひとりが購入した地図をみんなで共有して見回すなんてことになりかねない。
が、逆に安くしすぎても駄目だ。
地図としての信頼性が感じられないと思われると、それはそれで買う人もいなくなるだろう。
そのへんも考慮して、手ごろな値段を設定して販売したようだ。
また、地図と魔物の遭遇情報などは別料金を設定したようで、どこにどんな魔物が出現したかは個別販売にしたようだ。
探索者が学校に来てガウェイン先生に、この素材が手に入る魔物がいそうな位置を教えてくれ、だとか、採取できる場所を知りたいと聞いてお金を払うらしい。
そのおかげで、最近では探索者たちの間でもガウェイン先生の名は知られるようになり、もともと村人とは比べものにならないほど知識が豊富だからか、尊敬を集めているみたいだ。
よそから来た荒くれ担当の探索者たちからも「先生」と呼ばれているのを見かけたくらいだから相当だろう。
「ああ。今のところ、地図や情報の販売は悪いわけではないと思う。一度は落ち込んだケイオス村に滞在している探索者数の減少傾向も落ち着きだしているんじゃないかと思う。が、それとは別の問題がある」
「問題? どんなことがあるの。魔境探索をする人の助けになることなら、俺にできることはなんでもやるつもりだけど」
「そう言ってくれると助かる。実はな、探索者たちから要望が出ているんだ。俺からライゼルに薬を作ってくれるように頼んでくれとな」
ああ、なるほど。
これまでは、俺は基本的に鍛冶屋にいた。
鍛冶師ノクジルの見習い弟子兼経理担当として働きつつ、そこで薬の販売もしていたのだ。
が、今はしていない。
俺自身が魔境の森に入って、森の中に道を作り、地図を作ったりしていたからだ。
しかし、この地に来ている探索者からすると地図はありがたいものの、薬が手に入りにくいという状況は困るのだろう。
別に、俺の薬がものすごくよく効いて、怪我をしても使えばすぐに治るという効果があるわけではないんだけどな。
それでも、それなりに質のいい傷薬や軟膏、あるいは毒消しなどがあれば、森の中の探索はやりやすくなる。
なにせ、魔物と木々しかない魔境の森は、前に進んで歩くだけでも木の葉や枝でいたるところに切り傷ができるのだから。
「うーん。でもなぁ、俺も少しなら薬を作れるだろうけど、そんなに量は用意できないかもしれないからな。っていうか、いっそ薬作りも学校でやってもらうってのはどうだろう。俺のばあちゃんにも話をしておくから、生徒の皆に教えてもらってみんなで作るってのは駄目かな?」
「いや、そうだな。魔境や魔物、魔王種の問題はライゼル一人に頼るべきことではなく、この村全体の問題だ。ならば、その解決のために、ほかの村人たちを巻き込むことは決して悪いことではないだろう。わかった。ライゼルのばあさんにはお前から話をしておいてくれないか? 俺からも生徒だけではなく、ほかの村人にも薬作りやそのほかの探索者の活動支援の協力を頼んでみる」
「うん。お願いします、ガウェイン先生」
やっぱり、一人でできることには限界があるよな。
いくらなんでも俺があれもこれもしていたら、手が回らない。
その意味ではガウェイン先生の提案は非常にありがたいものだ。
それに、そういう村人に話を持って行くのは、子どもの俺よりも大人のガウェイン先生のほうが話をしやすいだろう。
こうして、ガウェイン先生が村人たち一人ひとりに話をしにいき、少しずつ魔境の探索がしやすい環境づくりが進んでいったのだった。
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