地図量産
「ガウェイン先生、お願いがあります。これを生徒たちに書き写してもらえませんか?」
しばらくの間、注連縄の向こうに広がる魔境で、複数の水場をつなぐように道づくりを行った。
そして、まだ完全とはいえないまでも、人が通った跡だと分かる程度の細道が、水場同士をつなげられたと判断したところで、俺はケイオス村にある学校へと顔を出し、そこにいたガウェイン先生に依頼を出した。
村にある唯一の学校で、そこで村の子どもたちに勉強を教えるという立場のガウェイン先生。
年齢一桁で通学を始めた俺などにも最初から学校にある本を書き写す写本を勉強法だと教えてきた人だが、この人は本来この村の人間ではない。
聞いた話ではどこかの町の名士の息子だとかで、実家が太いということは知っている。
てっきり、ブレナンが魔王種の存在とこの村の存続の危機を告げたときには、ガウェイン先生は実家に帰るのかと思っていたが、予想外にこの村に残っていた。
冷静に損得勘定だけで考えるなら逃げの一択だと思うのだけど、案外この村に思い入れでもあるのかもしれない。
そんなガウェイン先生へといくつかの紙を手渡した。
それを相変わらず無精ひげが伸びた顎を撫でながら、ガウェイン先生は紙に目を通しながら言った。
「これは、地図、か? もしかして、最近ライゼルが行っている魔境の地図ってことか?」
「そうそう。俺が探索して、魔境にある水場の位置と、そこに至る道について描いてある。おおよその距離と方角はあっているはずだよ。あんまり細かい地図じゃないけど、参考にはなると思う」
「だろうな。水場の位置が森歩きで重要なのは、俺でも知っている。が、いいのか? これを子どもたちに書き写させるってことは、ほかの人間に見せる意図があるってことだろう? こういう情報は魔境を探索した探索者自身の宝のはずだ。人に見せていい物じゃないと思うが」
俺がガウェイン先生に手渡したのは、魔境の森の概略図だ。
ケイオス村から注連縄に向かって歩いて行くルートと、そこからさらに進んだ魔境の地図になる。
複数の水場は俺が道を切り開いたところ以外にも、ブレナンパーティーで進んだルートでの場所もある。
さらに、道はないけれど魔王種のリッチがいた広場についてまでもを描いてある。
水場だけでなく、魔王種がいた場所まで記された地図となれば、情報としてはそれなりに高い価値があるんじゃないかと思う。
「だから、お願いがあるんだ。生徒が写した地図をガウェイン先生が探索者たちに売ってほしい。多分需要はあるはずだよ。できれば、この村に残っている探索者たちが少しでも長く魔境で活動したくなるように売ってほしい。魔物を狩り続けてもらえれば助かるから。もちろん、生徒たちの書き写すスピードと枚数を考慮して、一番利益が出る金額にしてくれるとさらにいいんだけど」
「……なるほど。ライゼルは本気でこの魔境の危機に対して取り組んでいるみたいだな。少しでも探索者たちが活動しやすい環境を作るため、というわけだな。わかった、俺も協力しよう。地図の売り上げはライゼルに渡せばいいか?」
「ううん。俺は魔物を狩って一応稼ぎがあるから、地図の売り上げは置いておいて。万が一、森から魔物や魔王種が出てきたら、ここにいる生徒たちを逃がすために使ってくれてもいいよ」
「そうか。承知した。ならば、地図の売り上げは俺が預かっておくことにしよう。だが、そうだな。それなら、もっとこの地図に付加価値をつけてもいいかもしれない。そのほうが高く売れるだろう」
「付加価値? 細かい地形をかき分けるのはちょっと難しいよ?」
「いや、そうじゃない。この地図は買う相手として想定しているのが探索者たちだろう。ならば、その探索者たちが欲しがる情報を追加すれば、さらに買いたいと思う者が増えるはずだ。例えば、そうだな。どのあたりでどんな魔物が出るだとか、この辺りでは金目のものが採れるとか、そういうのがあればどうだろうか。もちろん、ライゼルが知っている範囲で、かつ出してもいい情報で、だがな」
なるほど。
単純な地図の略図だけよりも、そういう注釈付きのものがあってもいいかもしれない。
一応、どこでどんな魔物と遭遇したかはメモってある。
これもブレナンパーティーと一緒に行動したときに記録しておいたものだ。
この森はカミマキという木が伐採できて、そのカミマキから紙が作れるから、紙資源がそれなりにある。
学校で子どもに写本を作らせているのも、地元で紙が手に入るという環境にあるからだった。
俺も普段からマジックバッグに紙束を入れ、気になったことはすぐにメモしている。
だから、遭遇した魔物の情報も残っている。
薬草などの採取場所も、まあ教えてもいいかもしれない。
材木ギルドが管理している森と違って、魔物がはびこる魔境の森は資源が豊富だし、誰が何を採ってきても村人は文句を言わないだろうしな。
こうして、俺はガウェイン先生と協力して魔境の森の地図兼情報ブックを作成し、量産していったのだった。
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