決断
「今日から俺も森に入るよ。探索者が減って、鍛冶屋の仕事も落ち着いてきたみたいだしね」
ブレナンたちがこの村を出て数日が経過した。
この村に残ることを決めた俺はその後もこれまで通りの生活を続けていた。
鍛冶屋のあるノクジル爺さんの仕事場で一緒に働いていたのだ。
が、この数日で明確に仕事量が減っていた。
それまでは、この村で唯一鍛冶仕事ができるここには、毎日のように探索者が訪れていた。
それが、ゼロになったわけではないが、目に見えて数は減っていた。
それこそ、俺が手伝わなくてもノクジル爺さん一人でこなせる程度の仕事量になっていた。
「危ないんじゃないかのう? というより、ライ坊はこの村を出ていってもいいとわしも思うぞ。ライ坊の家族もそう言っておったのじゃろう?」
「うん。話し合いではそう言われたね。だから兄さんや姉さんは出ていくって決めたみたいだし」
「ならば、ライ坊も一緒に行けばよい。ライ坊ならば、町へ出ても仕事には困らんじゃろう。読み書き計算もできて、鍛冶に木こりに魔物討伐もできるんじゃ。わしもそうしてくれたほうが安心なんじゃがな」
ノクジル爺さんは俺にこの村からの避難を勧めてくれる。
今はまだ大丈夫でも魔王種という存在を倒せない以上、この村は危険だ。
村を出て町で生活するということは決して悪いことではない。
むしろ、これらの事態を災害と位置付けるならば、普通の対処法ともいえるだろう。
そして、家族会議の結果、長男は村に残ると言ったものの、次男や姉は町へ行くことに決めた。
俺も一緒に行けとは家族からも言われたことだ。
「まあ、そうなんだけどさ。町に行ったらできなくて、この村に残ればできることっていうのもあるからね」
「ここに残るほうができることがある? それが、ライ坊の目的なんじゃな?」
「うん。ノクジルさんが作ってくれたこの鞄、マジックバッグだけどこいつの容量をさらに大きく拡張するにはどうしたって魔石がいる。けど、町にいっても魔石を手に入れられる手段がない。町だと貴族様方が魔石を買うから、俺みたいな一般人が手に入れられないからね」
「うーむ。それはそうかもしれんが、つまりは自分で魔物を倒して魔石を得ようということなんじゃろう? それはちと、危険すぎると思うんじゃがのう」
「そうかもしれない。けど、魔石があれば、マジックバッグだけじゃなく、このノクジルアックスも成長させられるでしょ? こいつの性能を高めてやれば、魔王種のリッチは無理でも、ほかの魔物やアンデッドなら倒せると思うんだよね。って、わけで俺はこの村に残るよ。これはもう決めたことだから、ごめんね、ノクジルさん」
魔石を手に入れるために村へ残る。
これまでは自身の闘気だけで成長させていたノクジルアックスも含めて、装備品の性能を向上させる。
それが、俺がここに残ることを決めた理由の一つだ。
もちろん、兄弟以外の家族がこの村での生活を続けたいと考えていたことも理由の一つであるのは間違いないのだけれど。
俺自身の安全だけを考えれば、村を出ていくのが一番いいとは思う。
が、実際には町に行けば安全なのかといえば、それは誰もわからない。
魔王種の影響がどこまで伸びてくるのかわからないし、そもそも田舎の村出身の人間が町にいってどんな生活を送れるかもわからないのだ。
それに、俺が森に入り魔物と戦ったり探索をすれば、それは家族の助けにもなるはずだ。
森にいる魔物を一人で全滅させられるなんてのは不可能だろうけれど、異変に対してはいち早く気が付くことができると思う。
今のところ、村へ魔物が押し寄せる兆候はないが、いずれそうなったときに一番に気が付くことができるのは、普段から森に入って魔物と戦っている探索者だろう。
いよいよとなった時は、家族を説得して、両親や祖父母を無理やり連れだしてやろうと考えていた。
それに、俺にはあれこれ言いつつも、この地に残ろうとしているノクジル爺さんも同じように引っ張っていこうと思っている。
こうして、俺は木こり兼鍛冶師見習い兼探索者として、魔境の森に入り、魔物と戦う生活を始めることにしたのだった。
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