ブレナンの説明
「ど、どういうことですか? 我々は確かにこう伝えたはずです。森にいるかもしれない魔王種を倒してほしい、と。男爵様もその願いを聞いたからこそ、あなた様をここに寄こしてくれたのではないのですか?」
「その通りだよ、村長さん。だけど、残念だが僕は降りる。このケイオス村の森の奥には確かに魔王種がいたが、僕らのパーティーでは倒すことはできないからだ。父上には僕のほうから報告しておくから安心してくれ」
「あ、安心と言われましても……。では、男爵様はほかの人に魔王種の討伐を託されるということでしょうか?」
「どうだろうね。そればかりは父上の判断次第だが、僕は難しいのではないかと思う。あれは、男爵家の手には余るからね。ここで断言することはできないけれど、討伐を確実に実行するなら、寄り親の伯爵家に頼るくらいしないと難しいかもしれないね」
ケイオス村の村長宅。
そこで村長に対してブレナンがそう告げる。
村長をはじめとした村の重役は、ブレナンの言葉を聞いてうめき声をあげる。
中には非難の声とともにブレナンに掴みかかろうとする者もいたくらいだが、さすがにそれは周囲から止められていた。
「……お前の目からみてどうなんだ? ライゼルもブレナン様たちと一緒に魔境の探索に行っていたんだろ?」
苦い顔をしながらも周囲の暴走を止めようと動くギルマス。
そのギルマスが俺に話を振ってきた。
魔王種の発見はなしたものの、その討伐を諦めて村からも撤退すると表明しているブレナンパーティーのメンバーでは、ブレナンとは違う意見が出てこないだろうと判断したのかもしれない。
魔境の奥深くまで探索に同行した、この村で唯一の住民である俺の意見を聞こうと話を向けてきた。
「魔境で、魔王種と思われる魔物は確かに発見した。魔物の種類は教えてもらっただけだけど、リッチで間違いないみたいだね。魔物の中でも高度な魔法を使うことができる魔法使いタイプの魔物で、死霊術師でもあるらしい。ゾンビ化した魔物のアンデッドたちも従えながら生きた魔物まで従えていたから魔王種で間違いないと思う。ちなみにリッチは実体のない幽霊型の魔物らしいから、武器とかの攻撃は効きにくいそうだよ。あそこにいたメンバーでダメージをまともに与えられるのは魔術師のレイラくらいだから、戦ってもまぁ勝つのは難しいだろうね」
子どもの俺の発言がどの程度聞き入れられるかはわからなかったが、今、俺が持っている情報を開示した。
それを聞いて、村長の家の中は悲しみの声が響いた。
俺に聞く前から、この情報を知っていた者もいたのかもしれないが、それでも改めて村の住人の一人が目にした情報というのを聞いて、感じるところがあったのだろう。
死霊術師、あるいはネクロマンサーと呼ばれる存在。
かつて、人類の領土を削り取ったことで知られる魔王種の中にはそのタイプの魔物がいたようで、そして、人類はその地を失ったまま取り戻すことができていない。
村長などもその話は知っていたようで、顔を青ざめさせている。
きっと、どうしようもないことなんだろう。
リッチという高位の魔物が魔王種として君臨していること。
それを倒すのは非常に難しいということ。
ケイオス村としては、なんとか倒してもらいたくても、これ以上の支払いは難しい状態であること。
状況は絶望的で、いずれは魔王種が魔物避けの効果を気にすることなくこの村にも侵攻してくる可能性が十分にあること。
そして、そうなった場合、こんな村は何の抵抗もできずに滅ぶしかないということ。
ブレナンの撤退表明を正式に村長の家で聞くことができるこの場の村民は誰もが重役、あるいは顔役とも言える人物だ。
だが、そんな面々が一同に絶望感を味わっている。
中には八つ当たりのように、「どうして魔王種をその場で倒してきてくれなかったのか」とか「お前らが魔王種を倒してこなかったから村が危険にさらされているんだぞ」と思っている者もいるんだろう。
村人たちの空気を感じ取ったのか、ブレナンパーティーのメンバーはブレナンを守るように一歩前に出て、敵意をにじませる者たちを牽制している。
激しい怒りと絶望を抱えながら、何もできない人たちがやり場のない気持ちを吐き出すようにため息を吐く。
それを見て、というわけではないだろうが、ブレナンが告げた。
「そういうわけで、僕は失礼するよ。助けになれずに悪いと思っている。父上には確かにこの村の置かれている現状を説明するし、アンデッド討伐のために教会にも話を通すつもりでいるから、そのことは任せてほしい。それでは、失礼」
そういって、ブレナンはサッと向きを変えて玄関扉へと向かって歩き出した。
それを見て、パーティーメンバーもそのあとに続く。
レイラだけが俺へ視線を向け、なにごとかを口元で呟いてから、去って行ったのだった。
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