アンデッド
「なぜアンデッドがここにいる? 穢れや淀みが溜まった土地ではアンデッドが生まれやすいと言われているが、ここはそんな話は聞いていないはずだったけど……」
運び屋ギーグがゾンビ犬の動かぬ死体をさぐっている間にブレナンたちは周囲を警戒しつつ相談を始めた。
この世界にはアンデッドが存在する。
それは俺も学校で写本を作っていた時に聖書を読んで知っていた。
聖書が正しい歴史を語っているのかどうかは知らないけれど、その存在はおとぎ話の中だけのものではないからだ。
実際、アンデッドが発生したことで、人が住めなくなった土地もあるらしい。
もっとも、それは遠い土地での話だ。
実際に自分たちの目で見るまでは、現実感が薄かった。
なにせ、俺に関しては前までは魔物すら見たことのない状態だったのだから。
「たまたま、こいつだけがゾンビ化したのであればそれはいい。が、問題はほかにもいた場合だな。できるだけ攻撃を受けないように注意しながら探索を続けよう。皆、それでいいな?」
ブレナンが今後の方針を決めて、全員に告げる。
皆がうなずき、それぞれ了承を示した。
が、誰もがその顔に不安を隠している。
「ブレナン様、質問いいですか? アンデッドに攻撃された場合、自分たちもそれと同じ存在になることってあるんですか?」
「ある、と聞いているよ。ただ、攻撃された場合に必ずなるわけではないけどね。正しくは、アンデッドに攻撃されて殺された者の死体がその不浄な土地に残された場合にはそいつもアンデッドになる可能性があるってところかな」
「つまり、あいつらに攻撃をされて傷を負っても、生きて帰って治療すればゾンビにはならないってことですか」
「そうだね。だけど、なるべく傷は負わないほうがいいだろう。普通よりも治りが悪いとも聞くからね」
やっぱり怖いな、アンデッドは。
もし、あのゾンビ犬に襲われていたのが俺だったら――。
いくら肉が爛れた体をしていたとはいえ、その牙は十分に硬く鋭かった。
俺の柔肌を容赦なくかみ切っていただろう。
それこそ、一歩間違えば命を落としていてもおかしくないほどの牙だった。
俺がこの魔境の森の奥で死んだらどうなる?
彼らは俺の死体を持って帰るか?
人の肉体は重い。
そして、その肉体には大した価値は存在しない。
ならば、探索者の多くは死んだ仲間といえどもその遺体を持ち帰りはしないだろう。
放置する、あるいは地面に埋めていくのが一般的なのではないだろうか。
だが、アンデッドに殺された場合は、この地に遺体を残されるとその遺体もアンデッド化してしまう可能性がある。
なら、死体を焼けばアンデッド化を防げるのだろうか。
だけど、基本的には探索者は森の中では火力の強い火を使わない。
火事になれば自分たちも困るからだ。
それに焚火程度の火力では、骨にするくらいの熱量もないだろうし、焼け残った体がアンデッドになることもあるかもしれない。
となると、アンデッドを確実に防ぐためには仲間の首を切り落とすのが一番いいのかもしれない。
ゾンビ犬は首を落とされたことで動きを止めた。
なら、人もアンデッド化する前に首を落としてしまえば――という発想だ。
精神的なつらさを考えなければ、そうするのがよさそうか。
えらいこっちゃ。
とんでもないことになってきた。
あのゾンビ犬がたまたま何かの拍子に死んでからアンデッドとして動き始めただけならそれでもいい。
襲われたのは運がなかったが、無事に切り抜けられたのだから。
だが、どうなんだろう。
もしも、ほかにもアンデッドがいたら、どうなる?
というか、あのゾンビ犬はほかの動物や魔物を攻撃したり、殺したりしていなかったのだろうか。
嫌な想像をした途端、さっきまでと何一つ変わらない森が、薄暗い闇の世界へと姿を変えたように感じた。
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