ゾンビ犬
この森に危険な薬品会社が細菌兵器でも持ち込んで、それが流出したのか?
なんでこんなところにゾンビ犬がいるんだ。
骨格的には犬、あるいは狼に見える姿なのに、その体表は皮膚が爛れて毛が抜け落ち、眼球が飛び出して垂れ下がり、あばらの間の肉も削げ落ちて内臓が見えている。
どう見たって、まともに生きている姿には見えない。
だというのに、生きた犬と変わらない勢いでこちらへ走ってくる。
「うおらぁ!」
近づいてきたゾンビ犬が汚らしいよだれを垂らしながら、大口を開けて噛みつこうとしてきた。
それを迎え撃つのはブレナンパーティーの鉄壁の盾役、ドランだ。
ゾンビ犬が噛みつこうと開いた口へ、盾を叩き込むようにぶちかました。
「キャン」
すると、意外なほどに可愛らしい悲鳴を上げてゾンビ犬が後方へと飛んでいった。
ゾンビ犬はそれほど大型ではない。
ドランの力があれば十分に弾き飛ばせるようだ。
レイラの後ろに隠れながら、俺はドランの盾やドランの体を観察する。
ゾンビといえば、やはり怖いのは感染だろう。
ゾンビに噛まれた人が次々とゾンビとなってしまうのは、ホラーものとしては使い古された設定だ。
だが、これが現実であれば手あかのついた設定だなどと笑ってはいられない。
間違いなく一級品の恐怖を味わうことになるからだ。
どうだろうか。
とりあえずは、ゾンビ犬が出す唾液に触れたドランの盾は無事みたいだ。
攻撃を防いだだけで防具が爛れ落ちるような様子はない。
もしそんなことになれば、攻撃を防ぐ方法にすら頭を悩ませてしまうことだろう。
シュッ!
そんなことを考えていると、次の攻撃がゾンビ犬に命中した。
バードが放った矢がゾンビ犬の体に命中している。
だが、致命傷にはならなかったようだ。
胴体へ矢が深々と突き刺さっているにもかかわらず、ゾンビ犬は再びこちらへと攻撃を加えようと動き出し、体勢を立て直した。
だが、それを悠長に見ているだけなんてことはあり得ない。
こちらと向こうで交互に交代するターンバトルではないため、ブレナンパーティーは追撃を畳み掛ける。
ドランのシールドバッシュに加えて、バードの弓矢の攻撃、そしてお次はリーダーのブレナンによる攻撃がさく裂した。
立派な長剣が振り下ろされて、今まさに起き上がりこちらへと振り返ったゾンビ犬の首を刎ね飛ばす。
ゴロリ、と地面を転がるアンデッドの犬の首。
そして、次の瞬間、胴体のほうもドサリと倒れた。
しばらくは、誰もがその死体を見つめる。
さすがに、ここからまだ動き出すなんてことはない……よな?
いくらアンデッドといっても、首を落とせばさすがに活動を停止するようだ。
……アンデッドもモンスターだよな?
っていうことは、魔物の特徴の一つである体内に魔石を持つというのは、あのゾンビ犬にも適用されるんだろうか。
……だとしても、なんか嫌だな。
腐った肉の中から魔石を取り出すのは、ちょっと勇気が必要だ。
俺がちらりとギーグを見る。
すると、同時にほかのメンバーも視線をギーグへと向けていた。
荷物持ちにして飲み物係、さらには解体までもを担当する何でも屋ギーグは、「え、俺がするの?」と一瞬驚きの表情をしてメンバーの顔を次々と見つめる。
だが、それも一巡したのか、最後に俺と目を合わせた後、はあとため息をつきながら、ゾンビ犬が動き出さないことを確認し、そちらへ向かっていった。
悪いね。
俺に手伝えることはないみたいだ。
ギーグが一度魔術で出した水で手をきれいに洗ってから、ゾンビ犬の体を調べ始めたのをみて、彼がいてくれてよかったと思ったのだった。
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