新たな魔物
「あ、あそこの木は多分トレントですね。向こうの枝が横に大きく広がっているやつです」
「あれか。了解した。進路を少し変えよう。バード、こっちの方向から進むことができる道があるかどうかを偵察してきてくれないか?」
「分かりました。行ってきます」
魔境の森の奥地をさらに進む。
一度トレントと遭遇したことで、その後は近づく前に存在へ気付けるようになった。
トレントは別にカエデの木のみに種類が限定されるわけではないみたいだ。
その後にいくつか見つけたトレントはさまざまな木の種類があった。
だが、その種類の違うトレントも共通することがいくつかある。
共通点の一つは、魔物である以上、魔石を持っていること。
もう一つは、獲物が近づくまでは普通の木と同じように静かにしているが、獲物が近くを通ればその枝などを使って襲い掛かってくること。
そして、他者の気配がないときは、ゆっくり地面を這うように移動していること。
おそらくだが、地面から栄養を吸い上げるだけではなく、自ら獲物を探す習性があるためだろう。
それにより、根っこが不自然に地面からめくれあがっていたりするし、付近の土の状態が変になっていることが多い。
この特徴を索敵担当のバードへ共有したことで、彼自身でも見分けられるようになっていた。
しかし、トレントがいることを近づく前に気が付くにはそれだけでは足りない。
何日もその場を動かずにじっとしているトレントもなかにはいるからだ。
そうした場合には地面の不自然さは相対的に少なく、気が付きにくい。
それでも、俺はトレントを見つけられた。
それは、気の色にある。
トレントは魔物として攻撃を開始すると、それまでには見られなかった変化が現れる。
木の表面に現れる人面だ。
人面樹とも呼ばれるように、トレントは攻撃を仕掛けてきたときには両目と口の模様が浮かび上がる。
そして、その両目と口の中央に位置する場所には魔石があることが多い。
この魔石の存在が俺にトレント発見を成功させる結果になった。
今までも森の中で活動する際には自身の肉体を周囲の気の状態に合わせる内気功・迷彩を使用している。
そして、そのためには常に自身の周りを観察し、辺り一帯の気の状況を見ているのだ。
気の状況は、俺には色として見える。
青、赤、黄、白、黒――そんな気の色を細かく観察していた。
そんななか、周囲に明らかに不自然な色の木があればどうしたって目立つし、気が付く。
つまり、トレントは人面が浮かび上がりそうな幹の中頃がその上下よりも濃い青色をしているのだ。
これは、あまりほかの普通の木では起こらない。
闘気を集中させた目で観察すると、普通の木はたいてい青色の気が見えるけれど、全体的に濃淡はないのだ。
幹の一部だけ濃い青色になっている木は、トレントである可能性が高い。
そう判断して報告することで、今のところ、トレントとの戦闘は避けることができていた。
だが、この魔境には魔物はたくさんいる。
トレントだけが魔物ではない。
「前方に気配あり。多分魔物がいると思うけど、速い速度でこっちに向かってきているっぽいです」
「トレントじゃない魔物ってことか。総員戦闘態勢に入れ。バードは右にそれて牽制の弓矢を放つ準備を頼む。……来るぞ」
一難去ってまた一難。
それはこれまでには遭遇したことのない魔物だった。
俺が目ではなく耳でその接近に気付いた魔物は一気に距離を詰めながら、藪から飛び出してきた。
姿は犬、あるいは狼のような四足歩行で尻尾をフリフリと左右に揺らしながら近づいてくる。
が、その姿は犬のようなかわいらしさは全くなかった。
なぜなら、その肉体は大きく爛れて、一部では骨まで見えていたからだ。
アンデッド。
死体そのもののような犬の魔物がこちらに走り寄ってきて攻撃してきたのだった。
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