家庭内労働
「ふぅー」
深く深呼吸をし、息を整える。
両足を肩幅に開き、自然体で立ちながら呼吸に集中し、内気功を行う。
内気功・輪転。
全身に流れる経絡上の闘気を通常よりもさらに速めていき、循環させる技だ。
この輪転を行うことで肉体が活性化し、力が上がる。
それだけではない。
体内を流れる闘気が無駄なく回り続けることで肉体を使っても気の消耗が減るという効果もある。
俺が五歳になるまでに磨き上げてきた闘気術の中でも最も基本ともいえる技であり、おそらく将来的には奥義にもなり得る、汎用性の高い気の活用法だ。
目を閉じ、輪転を行い、自分が出せる力を底上げする。
そんな俺が次に行うのは、ロープを引くことだ。
生まれたての乳飲み子ではなく、五歳を過ぎた俺の体は、それなりに成長している。
が、それでもまだ子どもの範囲に十分含まれる小ささで、この体にはきつい重労働を行おうとしていた。
それは、井戸からの水汲みと、その水を運ぶ作業だ。
そう、俺は今、俺自身に課せられた家庭内労働という仕事を子どもながらにこなしている。
祝詞を唱え、内気功で肉体を鍛えてきた俺は、ハイハイを脱却し、立ち上がったころあたりで家族からの視線に変化があった。
その変化に最初に気が付いたのは母親だった。
俺以外の兄弟よりもはるかにお乳を要求し、母乳を吸い上げる俺という存在が立ち上がり、離乳食から普通の食事に移行し始めて、そこで問題がはっきりと表面化した。
それは、俺が異常なほどに食欲旺盛だということだ。
最初に覚えた言葉が「我、この命を糧とし、力を得ん」という祝詞ではないかと思われるくらいにこの言葉を告げて食事を求める姿は、我が家の食費を大きく圧迫することになってしまった。
そして、我が家は決して貴族やお金持ちの家ではない。
むしろ、貧乏に位置する家庭だろう。
あまりに食欲旺盛な子どもに家族は困り果てた。
そして、家族は俺にこう言った。
食べ物を食べたいならば働け、と。
魔物が存在し、危険な森の中で木こりとして働いている俺の家族のお手伝い。
が、さすがにいくらなんでもわが子を森に送り出して自給自足を行えというほどに無茶苦茶なことは言われるはずもなく、親兄弟が木を切りに行っている間に、家の近くでもできる仕事を任されたというわけだ。
そして、朝一番に行う仕事の一つとしてあったのが、水汲みというわけだ。
村にある共同井戸へいくつかの桶を持っていった俺は、井戸に吊るされたロープを引いて水を汲み上げる。
五歳児の体重から考えると重すぎる水の量だが、内気功・輪転を行った肉体ならばそれが可能だった。
そして、その汲み上げた水を家から持ってきた桶に入れ、さらにもう何度か水を汲む。
桶に水が溜まったら、それを両手に持つ。
それだけではなく、もう一つを頭の上にも乗せる。
そのままバランスを取りながら歩く。
異世界に転生して、まさかこんな仕事をすることになるとは思いもしなかった。
とはいえ、これはこれで悪くはない。
内気功をずっとしてきたことで力だけではなくバランス感覚も養われているのか、頭の上の桶は歩いても揺れず、水がこぼれることなく家まで運べた。
そして、その運んだ桶から水を水瓶に移し変える。
大型の水瓶には中に大小さまざまな石や砂などが積層状態で入れられている。
この水瓶は単なる貯水タンクではなく、ろ過装置の役割も持っている。
これにより安全な水を俺たちは飲めるのだから、立派な仕事だろう。
が、水汲みはこの一度で終わるわけではない。
再び井戸へ向かい、水を汲んでは運ぶ。
その往復を何度も繰り返し、俺は朝の仕事をこなしたのだった。
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