トレント戦
「っち。総員、戦闘準備に入れ。レイラはいつでも魔術を撃てるように準備しておけよ。ったく、後でお説教だからな」
レイラが突然、魔術を放った。
それをきっかけに、トレントが動き出す。
今までは普通の木のような擬態をしていたのを解いて、木が根っこから動き出した。
そうか。
感じていた違和感というのはそこか。
木の根がある付近の土の状態が普通とは違っていたから、あいつには違和感があったんだろう。
そんなことに今更気が付いた俺だが、すぐにパーティー内の最後方に下がる。
レイラの放った魔術はトレントに見事に命中していた。
彼女の言い分はもっともで、俺がトレントをしっかりと見分けられるかどうかは今後の探索でも重要になってくる。
それは間違いないのだけれど、だからといってパーティーリーダーに確認もなしにいきなり魔術を使って攻撃してもいいわけではない。
だが、こんな状況で感情を優先するほどブレナンは未熟ではなかった。
後でしっかりと釘を刺すと宣言しながらも、すぐにメンバーに声をかけ戦闘準備に入る。
トレントは動きこそ遅いため、すぐに戦闘態勢に移行することができ、結果としては先制攻撃が成功したことと同じ状況になったわけだ。
魔術というと、ついファイアーボールのような魔術を想像してしまうのは、俺に前世のゲームや物語の情報があるからだろうか。
この世界の魔術にもそういう攻撃魔法は存在している。
が、この魔境の森に限っては、そういう火の攻撃魔法は禁止されている。
当然だろう。
村にはたくさんの木こりがいて、その木こりたちが伐ってくる木材は村にとって非常に大きな収益となっている。
そんな村の財産でもある木材の宝庫の森と、魔物が出る魔境の森は繋がっているのだ。
魔境の森で火を放つ攻撃魔術がむやみに使われたら、いつこの森で大火災が発生してもおかしくはない。
というわけで、村長はこの地を支配する男爵家に話を持って行くときも、探索者たちに村に来てくれるように呼び掛けたときにも、魔境の森では火の攻撃魔術を使わないように通達を出していた。
それは基本的には守られている。
なので、レイラが今回使った魔術というのはファイアーボールのようなものではない。
レイラが使ったのはストーンバレットだ。
漢字では『石礫』と書けそうな魔術だが、これがなかなかに恐ろしい。
なにせ、優秀な魔術師であるとブレナンも認めるレイラが放てば、ただ石を飛ばすのではなく質量攻撃と呼べるものになるからだ。
ぶっちゃけて言えば、使いづらいのではないかと思う。
火狐やフクロフクロウのような小型から中型サイズの魔物だと、その体を押しつぶして倒してしまえる攻撃力があるかわりに素材が駄目になるからだ。
ブレナンパーティーも第一目標は魔王種の討伐だけれど、けっしてその途中で倒す魔物の素材を無視しているわけではない。
あくまでも貴族家の三男という立場であるからか、ブレナンはこのパーティーの金銭的な面にも気を配っている。
それゆえに素材を無価値なものに変えるほどの攻撃力を持つレイラは普段はいざというときの切り札として待機させているのだ。
そんなレイラのストーンバレットが命中したにもかかわらず、トレントは動いていてこちらに近づいてきている。
それだけでも、トレントが厄介な魔物だと十分わかる。
だが、そんなトレントも無傷というわけではなかった。
ストーンバレットが命中した幹には大きな傷ができており、えぐれている。
……材木ギルドのギルマスや木こりたちが見たら、きっと怒るだろうな。
材木としての価値を大きく損なうえぐれ方だし。
「来るぞ。ドラン、守りを頼む。バードは短剣でその補助だ。ドランが防いだら俺とリーリーで攻撃を仕掛けるぞ」
幹がえぐれたトレントは、そこに本来人面樹のような人の顔が浮かび上がっていたのだろう。
だが、左目に当たるであろう部分が欠落し、大きな口を開いた隻眼の木の化け物としてこちらに近づき、その枝を大きく振るってきた。
それを盾役ドランが防ぐ。
一度、二度、三度……。
何度も左右から木の枝が振るわれて、そのたびにドランが盾で防ぐ。
だが、相手は大木のトレントだ。
完全には防ぎきれず、盾からはみ出した部分がドランの肩や脇腹、太ももをしたたかに打ち付けていく。
グゥッとうめき声をあげながらも、ドランはその役割を全うした。
痛みをこらえながらもその両目を閉じることなく、枝の軌道をしっかり見極めてガードをし、反撃につなげることに成功した。
ドランの背から飛び出すようにブレナンとリーリーが左右からトレントを攻撃する。
ガキン!
ブレナンの持つ剣がトレントの幹に食い込む。
リーリーの持つ双剣は枝を打つ。
だが、足りない。
トレントという木の魔物に対して、圧倒的にその攻撃力が足りていない。
二人の持つ武器はほかの探索者たちよりもはるかに質のいい武器であることはノクジル爺さんも認めるほどだが、一撃で切り飛ばせることはできなかったようだ。
大丈夫か?
トレントの攻撃を防ぎ切ったドランは素晴らしい働きをしたと思う。
だが、それを何度も同じようにするのは難しそうだと感じる。
二人の今の攻撃力では、あと何回同じような攻撃を行えばトレントを倒すことができるのだろうか。
やはり、トレントは見つけ次第回避するという、バードの意見が正解だったようだ。
あれは相手にするにはしんどい相手だ。
わざわざ戦うのはよほどのもの好きじゃないとしないだろう。
「ストーンバレット」
しかし、そんな俺の考えをよそに、魔術師レイラは攻撃する。
二人の前衛がわずかな傷をつけるのみに終わってしまったのと違い、レイラの質量攻撃に相当する高威力の魔術がトレントを襲う。
一度目に当てた幹と同じ場所を狙ったその攻撃は見事に命中し、それが決め手となった。
幹の半分近くをえぐられたトレントは、その巨体を支えきれず、えぐれた部分を起点としてミシミシと大きな音をたてながら折れ曲がり、最終的にはボキッと折れてしまったのだ。
「ふふん。すごいでしょ」
ドヤ顔するレイラ。
俺はその顔を見ながら、魔術ってスゲーんだなとあきれ果てたのだった。
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