違和感の報告
「……ん? もしかして、あれがトレントかな?」
「なに? トレントを見分けることができたのかい?」
「どうでしょう。最初に言ったとおり、トレントを見たことがないんですよね。だけど、あそこにあるカエデっぽい木に違和感を感じるんです。なんか嫌な感じがするというか……」
魔境探索を開始して、翌日のことだ。
森を進み、一晩野営した先の奥地でのことだ。
俺は遠目に見えた木に嫌な感じを受けた。
一見すると普通の木だ。
それなのに、どうしても違和感がある。
ほかの木と違って、あの木だけは、今にも動き出しそうな気がしてならなかった。
といっても、その理由を言語化するのは難しい。
だが、俺がここまで来たのはトレントを見分けるという仕事からだ。
無警戒に近寄って拘束されてしまうよりも、間違いだったとしてもリーダーのブレナンに言うほうがいい。
そう判断しての言葉だった。
「どうだ、バード。あれはトレントに見えるか?」
「……どうでしょうか。私にはわかりません。が、木こりの目からみて何らかの違和感があるというのであれば警戒しても損はないでしょう。迂回しますか?」
「え? 迂回するの? トレントを倒さないの?」
「ああ、そうだよ。トレントは動く木の魔物だけど、移動速度が速いわけじゃないからね。事前に察知して近づかないようにして、ここから先を探索する。そのつもりだけど、駄目なのかな?」
「い、いえ。駄目ってことはないですけど、それだとトレントの素材が手に入らないんじゃないかと思って……」
「トレントの素材? まあ、需要がないわけじゃないだろうけど、目的が違うよ。我々の目的はあくまでも魔王種の討伐だ。極論を言えば、本来倒すのは魔王種だけで十分なんだよ。もっとも、その道中で行く手を阻む魔物がいれば倒すけど、魔境の森にいる魔物すべてを相手にして戦う必要なんかどこにもないからね」
マジかよ。
いや、まあそうなんだろうけどさ。
ブレナンの目的を考えれば、最優先は魔王種の発見と討伐だ。
回避できる魔物とわざわざ戦う理由はない。
自分たちから喧嘩を吹っ掛けに行く必要なんてどこにもないだろう。
だが、そうなると俺の当てが外れたことになってしまう。
うまくトレントを見分けてやれば、攻撃を急に受けることを回避できるだけではなく、こちらから先制攻撃を仕掛けることもできる。
そうやって、トレントに逆に先制攻撃を食らわせて倒してしまい、あわよくば、その素材を少し分けてもらえないかと考えていた。
ぶっちゃけ、ここに来るまでの道中で俺の頭はそのことでいっぱいになっていた。
トレントの枝を一本もらえたら、ノクジルアックスの柄に加工して、今の柄と交換してやろうとまで思っていたのだ。
それができなくなってしまうわけか。
悲しい。
俺はその気持ちが表に出てしまい、露骨に落ち込んでしまった。
それを見て、レイラが動いた。
「トレントはあの木でいいの、少年?」
「え、うん。そうだけど、……ちょっと待ってよ、レイラ。なにする気?」
「確認する。少年の感じている違和感が本当にあっているかどうかは今後重要。もし間違っていたらこのパーティーは大変なことになる。今のうちに確認するのは大事」
「そうかもしれないけど、ストップ。って、ああ!」
昨日、俺がギーグの魔術をすごいすごいと言ったからだろうか。
昨日もギーグに対抗するように、魔物相手に魔術をぶっ放してほかのメンバーから怒られていた。
だが、彼女はまだ諦めていなかったようだ。
このパーティーに臨時で入り込んだ俺にいいところを見せようと魔術を発動した。
俺がトレントかもしれないと言った木に向かって。
独断専行はまずい。
そう思って止めようとしたのだが、遅かった。
レイラの放つ魔術がその木に命中する。
次の瞬間、その木が大きく震えて動き出したのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけけますと執筆の励みになります。




