便利な魔術
魔境を進むたび、何度も魔物が姿を現した。
俺が何度か魔物の気配を感じ取り知らせたからか、これではいけないと気合を入れた索敵担当のバードが入念に周囲を調べながら先へと進んでいく。
そんなふうに二重に警戒する形になったため、突発的な遭遇戦というのはほとんど起こらずに移動を続けることができた。
魔物が現れた場合の戦闘は、基本的にはバードが弓で先制し、ドランが盾でパーティー全体をガードし、ブレナンとリーリーが攻撃して仕留めていく。
今のところ、魔術師のレイラの出番は一切ない。
彼女は戦闘中も攻撃する素振りすら見せず、ただ全員の動きを見ているにとどめていた。
「魔術は使わないの?」
「……どうして? 使う必要ある?」
「いや、ないね。三人とも危なげなく戦っているし」
「でしょ?」
どうも、魔術師というのはとっておきの切り札的な存在なのかもしれない。
俺自身が魔術を使えないために理解していないが、きっと魔境に入ってすぐからバンバンと魔術を使っていたらすぐにガス欠を起こすんだろう。
別に油断しているわけではないみたいだから、俺が心配する必要はないんだろうな。
ぶっちゃけ、心配とかよりも魔術を使っているところを見たいだけだったんだけど。
「ライゼル君は魔術に興味があるのかい?」
そんな俺とレイラの会話を聞いて、戦闘を終えて自身でも周囲の警戒をしていたブレナンがこちらへと振り向き聞いてくる。
余計なことを話してしまったかもしれない。
戦闘に参加もせずにくだらないことを聞いたりしてて、探索の邪魔になるかもしれなかったかな。
まあ、俺たちの会話を咎めてというよりはブレナンも普通に話しかけてきただけみたいだ。
「興味はあります。昔昔、魔術の素養を調べてもらったとき、どの系統も全然なくて魔術は使えないだろうって言われたことがあったんで。それに村人で魔術を使える人ってあんまりいなくて、戦闘向けの魔術ってみたことがなかったので」
「そうなのかい? てっきりライゼル君は魔術を使う素養を持っているかと思ったんだけど、予想が外れたみたいだ。それじゃあ、せっかくだしライゼル君に魔術を使うところを見てもらおうか。といっても、レイラのじゃなくて、ギーグの魔術になるけどね。ギーグ、いいかい?」
「はい。【ウォーター】」
魔術の実演。
それはまさかの荷物持ちであるギーグという男性が俺に見せてくれることになった。
このブレナンパーティーではレイラ以外にも戦闘に参加せずについてきていたポーターとしてのギーグはなんと魔術の素養があるだけではなく、実際に使えるみたいだ。
手にした革袋に呪文を唱えて魔術を発動する。
すると、どうやらその革袋の中に水がたまったようだ。
「これって、飲み水を出す魔術ってことですか? 水筒を持ち運ばなくてもいいってこと?」
「そうだ。ギーグはこういう便利な魔術をいくつも使えるんだよ。探索するときに彼のような存在がいてくれるかどうかで、探索のしやすさが全然違ってくる。彼は僕らのパーティーに不可欠な存在なんだ」
「恐縮です」
水の入った革袋を持ったまま、ギーグが頭を下げる。
いや、これは便利だ。
飲み水にもできるし、倒した魔物の素材を解体したときになんかも使えるんじゃないだろうか。
確かに戦闘には役立たない魔術かもしれないけれど、これがあるだけで全然違うのは間違いないだろう。
つーか、こんな魔術が使えたら、俺も毎日井戸からの水汲みなんてこともしなくていいのに。
なんで、俺は魔術の素養がゼロなんだよ。
不公平だ。
それからというもの、俺はレイラから離れてギーグ氏に魔術についていろいろと話を聞かせてもらうことにした。
それを見て、なぜかレイラがやる気を出し、次に魔物と遭遇した戦闘では攻撃用の魔術を発動し、ブレナンたちに無駄に力を使うなと怒られたりしたのだった。
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