依頼
「一緒に魔境を探索、ですか?」
「ああ。どうか、お願いできないかな、ライゼル君。知っているかもしれないけれど、今、魔境の探索最前線ではトレントという魔物によって足止めを食らってしまっているんだ。森の木に詳しい木こりならば、いち早くトレントに気が付けると思うんだが、どうだろうか?」
数日前にも鍛冶屋に来た探索者と話をしていたので知っている。
魔境探索の行く手を阻む魔物としてトレントというやつがいるという話だ。
それに対処するために材木ギルドに探索を協力してくれる木こりがいないかを聞いたとも言っていた。
そして、誰が言ったかは知らないけれど、魔境で魔物を倒していた木こりとして、俺の名前が挙がっていたようだ。
だけど、本気か?
今、俺の目の前にいるのは普通の探索者ではない。
ケイオス村の魔境探索者の中でももっとも有名で最前線をひた走り、魔王種を討つために力を注いでいる人物だ。
ブレナン・バラスト氏。
男爵家の三男にして、自身でも領地を得るために危険を顧みずに探索を続ける人物が俺に声を掛けに来たのだ。
若い。
ブレナン・バラストは二十代半ばほどの青年で、かなりの美男子だった。
きっと両親や兄弟も美形だろうと思う美男子だが、その身に纏う金属鎧のためか、決して優男というだけではない力強さも感じる。
また、これまで遠くから見たことはあったけれど、実際に目の前にして話をしてみた印象は悪くない。
貴族らしく高圧的に接してくるわけでもなく、お願いベースの提案として一緒に森の探索をしてくれないかと話を持ってきてくれた。
「うーん……」
どうしたものか。
村にある魔物避けが効果を発揮しているのに注連縄を越えて魔物が現れるという現状は、この村に住む村民の一人として看過できない。
なので、俺が協力することで魔王種が倒せる可能性があるのであれば、協力することに抵抗はない。
ほかの探索者だったら、自分たちが安全に稼ぎを得るための提案にすぎないけれど、ブレナンは当初から明確に魔王種を討つことを目的としてここに来ているのだから。
だがしかし、だ。
実際のところ、俺にその仕事を務まるのだろうか。
なんといっても、俺はトレントを見たこともないのだ。
木こりだからほかの木と見分けがつくだろうと言われても、できるかどうかは全く分からない。
わざわざついて行った挙句に見分けがつかずに木の化け物に縛り上げられて栄養になってしまう可能性だってあるわけだ。
「魔境でのライゼル君の安全は保障するよ。俺たちのパーティーの一人であるレイラを君の護衛につけよう。レイラ、こっちに来てくれ。紹介しよう。彼女は優秀な魔術師だ。彼女のそばを離れなければ魔物が近寄ってくる前に倒してくれるよ」
「よろしくー、少年」
話を聞いて、協力したい気持ちはある。
けれど、自信がなくて断ろうかとも思っていた。
そんな俺の心情を察知したのだろうか。
ブレナンは俺の迷いを見抜いたのか、一人の女性を紹介してくれた。
彼と一緒に魔境を探索しているメンバーの一人を専属の護衛につけてくれるという。
レイラと呼ばれた女の子だ。
魔女っぽい格好をしている。
紺のローブを身に纏い、黒いとんがり帽子をかぶっている。
魔術師って皆こんな格好をしているんだろうか。
しかし、くいっととんがり帽子のつばを持ち上げたときに見えた顔は、なかなかに可愛かった。
このど田舎の村では見かけないくらい整った顔立ちだ。
「行きます」
きれいな女性にころっと流された男みたいに、俺はレイラを前にしてそう言ってしまった。
大丈夫だろうか。
まあ、トレントの見分けがつかなかったらその時は素直に謝って離脱しよう。
そんな風に割り切って、俺はブレナンやレイラたちとともに魔境に入ることにしたのだった。
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