厄介な魔物
「トレント? 木の魔物なんかいるんだね」
「ああ。厄介だよ、本当にな。奴ら、そばを通った人間や動物をその枝や蔦でからめとって栄養を吸い取りやがる。なのに、攻撃されるまで普通の木と違いが判らねえからどうにもやりにくいんだよな」
鍛冶屋に来た探索者が愚痴を言う。
どうやら、魔境の探索は徐々に進んではいるものの、ここに来て手ごわい相手がいるようだ。
トレント、あるいは人面樹とも呼ばれる魔物がその行く手を阻んでいるようだ。
普段はただの木と変わらない姿をしているが、動き出すと魔物として襲いかかってくる。
動き出してしまえば木肌に人の顔のような模様が浮かび上がるそうだが、じっとしているときには普通の木と見分けがつかないのだとか。
場所が森ということもあり、周囲は木ばかりだ。
どうしても慎重に進まざるを得ず、探索の足が鈍ってしまっているようだ。
「今はどうやって対処しているの?」
「どうもこうもねえな。普通に進むしか方法がないから、対処法っていっても誰かが単独で先行しすぎず、互いに援護できる距離を保ちながら進むってだけだ。トレントを見分けられそうな木こりに探索を手伝ってもらいたいって材木ギルドに頼んでも、誰も引き受けてくれなかったみたいだしな」
「そりゃそうだよ。木こりは魔物避けの効果範囲内で木を伐るのが仕事だから、そもそも魔物がいる魔境で活動したがる人なんていないに決まっているよ」
「そうか? この村の材木ギルドには変わり者の木こりもいるって話だったがな。一人で魔境に入って魔物を狩る木こりがいるとかなんとか。確か、名前はライゼルっつったっけな?」
「ライゼルさんは今忙しいみたいだよ。はい、剣の研ぎ終わり。これでどう?」
「おう。ばっちりだな。助かったぜ。これでまた探索の続きができるってもんだ」
世間話をしながら、剣を砥ぐ。
少し欠けていた剣だが、きれいに研ぐことができ、仕事完了。
お代を受け取って、その探索者は出ていった。
トレント、か。
あの森は先に進むとそんなものもいるんだな。
といっても、普通ならばそこまで危険な相手でもないみたいだ。
なにせ動かない相手なんだし。
だが、魔王種がいるかもしれないという状況がトレントの危険性を高めていた。
基本的に魔物は同種以外ではそれほど群れないのだけれど、異種の魔物をまとめ上げる存在がいるためか、トレントに掴まってしまうと他から魔物が現れるのだとか。
捕まった人を助けようとしていると後ろから近付いてきた魔物に襲われ、そちらへと対処しようとすれば、トレントからも枝が伸びてくる、といった具合になるそうだ。
なかなかに嫌らしい連係プレーといえるだろう。
「ノクジルさん、トレントって買取金額高いのかな?」
「ん? そうだな。普通の木よりも高く買い取っても売れるはずじゃ。丈夫じゃから建築素材としても使われるが、魔術を扱う際の道具としても有効じゃからな」
「おおー。魔術用の杖とかにするってこと?」
「うむ。なんだったら、ライ坊の斧に使ってもいいかもしれんな。しなりがあり、折れにくいから武器の柄に使う者もいるんじゃよ」
「あ、それいいね。欲しいな。誰かトレント倒して持ってきてくれないかな?」
「うーむ。探索者が使う武器は剣や槍が多いからのう。トレントを倒すのは大変じゃと思うぞ。剣や槍では木を切り倒すのに向いておらんからな」
「そういやそうだね。普通に木を伐るのも手間なのに、攻撃してくる魔物としてのトレント相手は厳しいか」
探索者たちもわざわざ倒しにくい相手を自分から狙うことはないだろうしな。
魔王種がトレントのいる場所にいるならともかく、そうじゃないならそのエリアを避ければいいだけだ。
まあ、それでも遭遇したら倒すこともあるだろうし、トレントの素材も買い取り対象だと一応周知しておこうかな。
そんなふうに考えていると、その数日後に、俺のもとに予期せぬ依頼が舞い込んできたのだった。
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