大忙し
「まいど。これお釣りね」
「あんがとよ、坊主。そうだ、ついでに回復薬と解毒薬ももらえるか?」
「オッケー。持ってくるよ」
ケイオス村の外れに位置する鍛冶屋にて、探索者とやり取りする。
この村にやってきた探索者が武器の手入れに鍛冶屋へ来るのは当然として、そのついでとばかりに薬まで求めてくる。
ノクジル爺さんはこの薬というのはほとんど関与していない。
薬を作っているのは何を隠そう、この俺だ。
昔から森で薬草や野草、キノコを採取し、それらをすり鉢で潰して煎じていた。
その経験のおかげか、俺の調薬技術はそれなりのものらしく、何度か怪我をして鍛冶屋にやってきた探索者に薬として売り出したところ、他にも買う者が出始めたのだ。
最近は煎じ薬以外にも軟膏のような塗り薬も用意し、森での探索での急な怪我の手当ができると評判になっていた。
だいたいの金属製の武器に精通しているノクジル爺さんは、魔物の革を使っての防具にも高い技術を持っている。
男爵家三男のブレナン・バラストは防御力の高い金属鎧を着ていたが、多くの探索者は革鎧を着ている者が多数派だ。
森の中を移動し、魔物と戦う探索者という職業は革鎧にもダメージを与えるため、必要とあらばその鎧も手入れが必要になる。
ノクジル爺さんの鍛冶屋は、武器だけでなく革防具や薬まで扱う何でも屋として、探索者たちから信頼を集めていた。
当然、クッソ忙しいノクジル爺さんは一人で仕事をするには大変すぎるということで、弟子である俺にも鍛冶屋の仕事を手伝わせた。
特に俺は計算も文字の読み書きも学校で習ってできるため、主に作業をノクジル爺さんが行い、俺が店番として会計を担当することが多くなった。
八歳の子どもが、武器を担いだむさくるしい探索者相手に商売をする。
もちろん問題が起きないわけではないが、まあ、なんとかなっていると言えるだろうか。
ほかに武器防具を扱う店がないために、強気の価格設定で捌いていた。
「いらっしゃいませ。武器の修理っすか?」
「いや、買い取りを頼む。突撃猪を持ってきた。解体をして、牙と毛皮は買い取ってもらって、肉は一部持って帰りたい」
「うっす。なら、解体費用ももらいますよ。毛皮は……剣の傷が結構深いですね。ちょっと査定額が低くなりますけど、いいっすか?」
「しょうがねえな。だけど、牙はいい状態だろ? 高く買い取ってくれよ」
村には商人たちもたくさん来ている。
探索者たちは魔境で倒した魔物を持ち帰り、商人に売る。
そこで、利益を得ているのだけれど、なぜだか知らないがこの鍛冶屋に持ってきて売る連中もそれなりにいた。
多分だけど、商人は買い叩く人もいるんだろう。
今みたいに魔物の死骸を持ち込まれても商人側からしても困るだろうし、町へ持ち帰って解体する手間などを考慮すると、どうしても高価買取にならないケースがある。
もっと希少な魔物だったら話は違うんだろうけどな。
例えばだけど、俺が冬の間に倒して手に入れたフクロフクロウなんかは、倒した状態のまま商人のところに持ち込んでも高価買取してくれる。
というか、むしろ下手に素人が自分で解体して容量拡張効果のある皮膚袋を傷つけたら商人たちも困るので、解体せずに持って行ったほうが高評価をもらえるのだ。
が、突撃猪は魔物の中でもそれなりにポピュラーであるために、売値もそれなりだ。
人によっては自分が食べる肉と魔石を回収して、残りは森に放置する人もいるくらいなのだそうだ。
そんなレア素材ではない魔物の素材を少しでも高く売ってやろうという魂胆で鍛冶場に持ち込む探索者がいて、ノクジル爺さんはそれを受け入れている。
この場合、困るのは店番をしている俺だ。
今まで魔物素材なんてものはほとんど見たこともなかったのに、それを査定して買い取る仕事まで任されてしまったからだ。
ノクジル爺さんに損をさせるわけにはいかないと、この一月、商人連中などのもとにも足を運びつつ、相場や素材の状態を見極める目を養う必要があった。
ようやく少し慣れてきて、見ただけで明らかに商品価値がないものを見分けることはできるようになっている。
そんなふうに仕事をしているときに、新たな客が鍛冶屋へとやってきた。
いつも通りに店番をする俺がいらっしゃいと声をかけ、仕事を請け負う。
客の探索者と世間話もしながら、まだ魔王種が見つかっていないことなどを聞きつつ、俺は鍛冶屋での仕事に精を出していたのだった。
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