好景気
ケイオス村に特需が舞い降りた。
雪が解けて春が来て、それからしばらく経過したころ、俺たちの村では誰しもがそれを感じていた。
これまでは、この村には限られた人しか訪れることがなかった。
馴染みの行商人などが村と町を往復するように行き来し、村で採れる材木や竹、薬草などを扱うくらいしかなかったからだ。
だが、それがどうだろう。
村に探索者たちが来てから様子が一変した。
ケイオス村に隣接する魔境に魔王種がいるかもしれず、それを探し討伐することを目的としたブレナン一派。
当地を支配するバラスト男爵家三男がメインとなり、それをサポートする家臣や探索者たち。
彼らは魔王種という敵性存在を狩るためにこの地に来ている。
それに対して、ブレナン一派とは直接関係はない探索者もこの村には多くやってきていた。
彼らも魔王種を見つけて倒したいと考えているのかもしれない。
だが、それよりも目先の利益を求めて、普通に魔物を倒してその素材や魔石を得ることを目的にこの地に来ている探索者もそれなりにいるのだそうだ。
彼らは強敵であることが間違いない魔王種などとは積極的に戦いたいと考えていない。
自分たちの力量で倒せる魔物を狩り、そこから利益を得るために行動している。
誰もいない魔境に乗り込んで魔物狩りをするのと違い、他にも探索者が集まっているというこの状況はそういう連中にとってはリスク回避にもなるわけだ。
そういうわけで、村の周囲から幾人もの探索者がケイオス村にやってきて成果を上げる。
そうすると、ほかにもその流れに便乗しようとする探索者が集まり、その噂を聞きつけた商人たちまで村へ足を運ぶようになった。
魔物と戦う探索者は手に入れる利益も大きいのだけれど、使うお金も相応に大きいからだ。
消耗品である武器防具の補充も必要だし、食べ物や飲み物などもいるだろう。
さらに、危険な魔境での活動を終えた後に心身をリラックスさせるために酒と食事を求めるものも多い。
そういったもろもろの消費活動を当てにして商人たちがこの村に商品を持ち込んでくるのだ。
当然、それらの品は探索者以外も購入することは可能だ。
これまでよりも、いろんなものが村にあふれかえるようになった。
村人たちも最初はよそ者として警戒していた探索者相手に物を売り、そこで小金を稼ぎ、商人たちから物を買うことも増えた。
今までにない村の中での経済活動が活発になったといってもいいだろう。
また、よそ者の探索者たちが思ったより問題を起こしていないのも大きい。
一番上に魔王種を狙う貴族の息子がいることが多少の抑止力になっているのだろう。
ブレナン一派にとってみれば、この村は活動拠点であるので、そこでの安全を失いたくないと考えている。
なので、よそから来た探索者が問題を起こした際に村長が訴え出ると、割と真摯に対応してくれたのだ。
そんなわけで、ケイオス村は春になってから非常に好景気に沸いている。
そして、そんな好景気は俺にも影響を与えていた。
「次はこっちの剣を砥いでおいてくれ。そのあとはこっちだ」
「了解! すぐやるよ」
ケイオス村にある唯一の鍛冶屋。
ノクジル爺さんが営む小さな鍛冶場は今、大忙しだ。
多くの探索者が武器を手に魔境に入り、そして魔物を狩る。
その途中で傷む剣や槍などの多種多様な武器。
さすがにすぐに商人たちから買い替えて新しい武器に変えることはなく、基本的には手入れして使い込むことがほとんどだ。
そして、それを任せられるのは村でここだけだった。
俺とノクジル爺さんはこの一月、ひたすらに鍛冶を繰り返す日々を続けていたのだった。
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