冬の終わり
「っほ。やあ! とう」
ノクジルアックスを振り、敵を迎え撃つ。
目の前にいるのは火狐だ。
大きな赤色の尻尾から炎を飛ばして攻撃してくる魔物のキツネ。
こいつが放つ炎をかいくぐりながら雪上を走り、接近して斧を振る。
「とどめ」
魔境に広がる木々を盾にしながら近づくことに成功し、俺が振るったノクジルアックスが火狐の胴体に命中した。
一瞬感じる抵抗に負けないように、斧に闘気を纏わせて振り切る。
次の瞬間、ブシャッと鮮血が散った。
「ふぅ」
斧についた火狐の血を飛ばして拭う。
ノクジルアックスによる一撃は間違いなくこの魔物の命を絶ったようで、息絶えている。
それを見ながら、俺は斧を背中に背負いなおして、腰からナイフに持ち替えた。
首からお腹にかけての皮膚を切り裂き、皮を剥ぐ。
この火狐の皮は暖かい素材で人気があるとのことで、高く売れるらしい。
きれいに皮を剥いでから、今度は胴体部分の胸にも深く切れ込みを入れ、心臓のそばにある魔石を取り出した。
赤いきれいな魔石を抜き取り、それを腰のマジックバッグに押し当てる。
「汝、この魔石を糧に、力を得ん」
マジックバッグの口を開け、鞄内部の革のところに当てた魔石が祝詞を唱えることで消滅する。
どういう原理かは知らないけれど、魔石に内包されたエネルギーがマジックバッグを成長させる効果を発揮して、その役目を果たし消え去ったようだ。
これまでにも何度か魔石を取り込んだことで、俺のマジックバッグの容量は少しずつ増えていた。
といっても、まだそこまで 無尽蔵に入るわけではない。
だが、腰に取りつけるウエストポーチタイプの鞄と比較すると、この鞄の中には結構な物を入れられるようになっている。
今なら背嚢三つ分くらいは余裕で入るだろう。
着替えを詰め込めば小旅行くらいには行けるんじゃないかというくらいの荷物を運ぶことができるようになっていた。
「よし、そろそろ帰るかな」
火狐を倒して素材採取などを終えた俺は帰路につく。
この冬は結局、かなりの頻度で魔物避けの効果範囲外にまで足を運んでいた。
基本的には氷菓樹の実を採取するためだったのだけれど、最近では雪が降っていない晴れた日にも魔境にくることが増えていた。
マジックバッグを成長させるために魔石が必要だったからだ。
森にある注連縄の先のエリアではフクロフクロウのほかにも先ほどの火狐や、あるいはスノーゴーレムなどと遭遇し、戦闘を経験している。
注連縄のこちら側にはスノーゴーレム以外は見かけない。
ただ、数回だけ注連縄の向こうでフクロフクロウや火狐がスノーゴーレムと組んで行動しているときがあった。
同種同士ではなく別種の魔物が共に行動していたというわけだ。
一応、常に警戒していてそういった異種同士の集団を見かけたら、即座に離れるようにしていたので、そういうやつらとは戦ったりはしていない。
だが、やはりそうなると魔王種のような存在がこの村の近くにいるということなんだろうか。
ガウェイン先生を通してこの情報は村長のもとにいっているはずだ。
だが、まだ村長は動いていないようだ。
証言者が子どもの俺だけだし、冬のさなかに森に入る人はほかにいないというのもあるだろう。
けれど、ようやく冬も終わる。
雪がなくなってくれば、外部から探索者を呼び寄せ、魔の森を調査するくらいはするだろう。
そう思いながらも、俺は同じように魔境を回って氷菓樹の実などを回収しながら冬を越した。
そしてとうとう春が来た。
新緑の季節が近づいてきたのだった。
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