魔境での戦闘
「ホ、ホー」
魔境の森に高らかにフクロウの声が響く。
俺に向かって突進してきたフクロフクロウが、まだ子どもの俺を仕留めたと思ったのだろう。
気をよくした勝利の雄叫び、といったところか。
「いってーな、こら。調子に乗るなよ、フクロウ野郎が」
だが、俺はまだやられたわけではない。
大きな体を持つフクロフクロウにぶつかられたが、かろうじて直撃は避けていたのだ。
もっとも、お腹の前でガードしてそのままぶっ飛ばされて雪の上にズサーっと倒れ込んだので、仕留めたと思われても仕方がないかもしれないけれど。
けれど、俺はまだ生きている。
突進してきたフクロフクロウの羽ばたきによる加速。
一瞬、上昇するのかと思ったので、予想外の攻撃ではあった。
だが、俺は奴を見失ってはいなかった。
恐怖で目を閉じてもいない。
これまで、魔境ではない森の中で様々な形をしたスノーゴーレムたちと戦ってきた経験が生きたとも言えるかもしれない。
雪でできた体を持つスノーゴーレムは魔石を核として動く魔物であるが、個体それぞれで動きが違う。
しかも、普通の動物であれば動けないような角度であっても、雪の体は関節を逆向きに折り曲げても痛みなど感じずに、恐ろしく奇怪な動きを披露することもあったのだ。
なので、これまでの森でのスノーゴーレムとの戦闘経験を持つ俺は、相手の体だけではなく、その身から読み取れる闘気の動きにも常に注目していた。
これが良かったのだろう。
上昇すると見せかけたフクロフクロウは、直進すると同時に闘気を嘴へ集中させた。
それを見た瞬間に、俺はその嘴での攻撃だけは何としても回避しようと動いた。
とっさの判断というか、反射に近い動きだっただろう。
わずかに身を引きながら、お腹とノクジルアックスの柄に闘気を集中させたのだ。
フクロフクロウの鋭い嘴は、木の柄でなんとか受け止め、それを横方向に流すことに成功した。
だが、大きな体そのものは完全に反らしきることができずに、ぶつかられてしまったというわけだ。
おかげでお腹をぶん殴られたようなダメージを受けてしまった。
ボクサーのボディーブローを食らったら、きっとこんな感じなのだろう。
けれど、そのボディーブローも無抵抗で受けたわけではなかったのが功を奏した。
お腹に闘気を集めるというとっさの動きで、なんとか動くことができた。
「ホ~」
「遅い」
どこで聞いたんだったか。
動物だろうが魔物だろうが、圧倒的捕食者だろうが、関係ない。
自分の攻撃が成功した、相手を仕留めたと感じたとき、その直後には大きな隙が生まれるという。
だからこそ、武術の達人などは、攻撃直後にも気を抜かず、相手の反撃を警戒するのだそうだ。
これを残心という。
どうやら、俺を攻撃したフクロフクロウは修業が足りなかったらしい。
俺に対しての嘴での攻撃が不発であったにもかかわらず、胴体に頭突きを食らわせて倒したと思ったのだろう。
ホーホーと鳴いて勝利を喜んでいるのは、明確に隙だった。
しかも、俺がフクロフクロウの突進で吹き飛ばされた地点の近くで嬉しそうにそんな鳴き声なんか上げてやがる。
そんな明確な隙を見逃すほど、俺には余裕なんてない。
「ウラァ!!」
腹の痛みを無理やり押し殺しながら飛び起き、その勢いのままノクジルアックスを振り下ろした。
そこには近くの木の枝にとまったフクロフクロウがいる。
鋭い嘴のその下で、胴体よりも上の部分。
ちょうど首筋を斜めに引き裂くように、ノクジルアックスが走った。
次の瞬間、魔境の雪の上に赤い血が広がり、そして、フクロフクロウの巨体が倒れた。
……よかった。
どうやらこいつはスノーゴーレムのように体を切っても動き出す、なんてことはないようだ。
それでも俺は、まだ動くかもと用心しつつ、もう一度斧を振り上げてフクロフクロウの首を切り落としたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけけますと執筆の励みになります。




