フクロフクロウ
「大漁、大漁っと」
俺は背中に背負った籠の中に採取した氷菓樹の実を入れる。
薪や柴、あるいはキノコや薬草などを採取するのに使っていたこの籠には、今は氷菓樹の実がいくつも入っている。
ここ最近では丸一日森の中を探し回って一つ二つしか手に入らなかったのに、すごい違いだ。
さすが、注連縄を越えた魔境といっていいだろう。
「しかも、こっちで採れた実のほうがおいしいんじゃないか? 味がすっごい濃いぞ、これ」
籠に入れず、俺の口に入った氷菓樹の実が一つある。
シャクシャクと噛めば舌の上で解け、甘味が広がる。
喉を通る感覚までも楽しませてくれるこの高級フルーツは、村のそばの森で採れるものよりも格別に味わい深い感じがする。
それに、祝詞を唱えて食べたときに取り込める気の量も、魔境で採れたもののほうが多そうだ。
ついつい、見つけるたびに回収してしまった。
「でも、なんでこっちのほうが数が多くておいしいのにスノーゴーレムは注連縄を越えてきたんだろうな?」
どうしてもそこが不思議で仕方がない。
雪でできた体を持つ魔物に味なんてわかるのかは不明だけれど、魔物でも良し悪しくらいは分かるんじゃないだろうか。
明らかに魔境側で採れる氷菓樹の実のほうが質がいいのに、なぜ村のそばまできたりするのか。
スノーゴーレムたちは薄味が好きなのか、それともほかに理由があるのか。
そんなことを考えているときだった。
本当に偶然だ。
ただ、なんとなく音が聞こえたように思って氷菓樹のてっぺんで実を採取しながら、音がしたほうへと目を向けた。
目が合った。
真っ黒な、まん丸い、漆黒の瞳。
それが俺の視線と交わり、しかもそらさない。
森の中にある木のてっぺんにいる俺という存在をがっちり見つめて離さない。
「やっば」
それは魔物だった。
スノーゴーレムとは別の魔物。
だけど、前にあったスノーゴーレムのような鳥型の魔物。
鳥型というか、まんま鳥の魔物か。
漆黒の瞳を持つ、真っ白な体毛のフクロウがそこにいた。
でかい。
そいつは遠くの木の枝にとまっているはずなのに、その体の大きさが木の幹よりも太かった。
多分だけど、一抱えもあるくらいのウエスト回りじゃないだろうか。
あんな体で本当に飛べるのか?
意外と、飛べない鳥なんじゃないかと思ったけど、違った。
ホー、というフクロウの鳴き声をしつつ、一切の羽音をたてずに木の枝から滑空する。
巨体に見合わずに、なめらかな滑空からの、音のない羽ばたきでふわりと上昇する。
一度低く飛び降りてからの上昇で俺に狙いをつけたのか、再びの滑空。
その滑空コースは明らかに俺のほうへと向かってきていた。
あれは見たことがある。
学校に置いてあった本に挿絵付きで載っていたから間違いない。
ただのフクロウではなく、魔物として知られるフクロフクロウだ。
カンガルーみたいにフクロウの大きなおなかにポケットのような袋が存在しているのだ。
そして、その袋にさまざまなものを詰め込むらしい。
一説には自分が仕留めた獲物を袋に入れて保管しているのだとか。
倒した獲物をその場で食べつくすのではなく、時間をかけて生かしたまま後でおいしくいただく姿が目撃されたこともあるそうだ。
いやだ。
そんな未来は絶対に嫌だ。
慌てて木の上から滑り降り、雪の上に着地する。
そして、ノクジルアックスを構えた。
すでにフクロフクロウは俺のほうへと向かい接近しており、あと数秒もあればぶつかる。
そう思った時だった。
フクロフクロウが音もたてずに羽ばたく。
また上昇する気か?
そう思ったが違った。
さっきのように上へと体が持ち上がるのではなく、前に加速したのだ。
あと少しで激突すると予想していた俺をあざ笑うかのように、急加速したフクロフクロウの体が俺の胴体にぶつかったのだった。
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