魔王種と魔物避け
「わかった。情報に感謝する。この件は私がしかるべき処置を行う故、くれぐれも軽率な行動にはとらないように」
村にある一番大きな建物である村長宅。
そこにアポなしで訪問した俺とガウェイン先生は特に何があるわけでもなく、村長と会うことができた。
俺が森の中で魔物であるスノーゴーレムと遭遇したことをガウェイン先生が説明し、それに対して村長が直接の発見者である俺にいくつかの質問を投げかける。
いくつかのやり取りを終え、村長から「責任をもって対処する」との言葉を聞いた俺たちは村長宅を後にした。
「よかったですね、ガウェイン先生。村長もああ言ってくれましたし、後は任せましょう」
村長の家を出てからしばらくの間、ガウェイン先生は無言で歩き続けた。
このまま学校まで戻ってもいいのだろうけれど、道中に何一つしゃべらないというのもどうかと思い、当たり障りのないことを俺が言う。
だが、ガウェイン先生の表情は厳しさが残っていた。
「おそらく、村長は様子を見ることになると思う。それこそ、村や村人に魔物による被害が出るまでは」
「ええ? 被害が出てから動くってことですか? それはさすがに遅すぎるでしょう」
「いや、様子見といってもこの村にある魔物避けがきちんと機能しているかの確認はするだろうな。だが、それが問題なければ特に何もしないだろう」
ガウェイン先生は確信を持っていそうな感じでそんなことを言う。
いまだ世間知らずの子どもに過ぎない俺と違い、村長のこれからの行動は読みやすいものなのかもしれない。
まあ、分からなくもない。
森で魔物が出たからといって、現状では何も起きていないのだから。
今から慌てて動く必要があるのか、俺にも判断はつかないし、案外これはガウェイン先生の心配しすぎなのかもしれないのだし。
「ガウェイン先生は何かする必要があると考えているわけですか?」
「……正直なところ、難しい問題だな。一般的に言えば村長の方針は間違っていない。だが、やはり気にはなる。魔物の一体や二体が村に近づくくらいなら気にする必要はないが、ライゼルは何度も遭遇しているのだろう」
「そうですね。見つかる前に逃げたのも合わせたら、十や二十じゃきかないですね」
「やはりそれはおかしいと思う。ライゼル、お前はなぜこの村に魔物が近づいてこないかは知っているか?」
「そりゃあ、魔物避けがあるからじゃないんですか? どこの村にもたいていあるって聞いていますよ。便利ですよね」
「そうだ。だが、逆に言えば魔物避けがあるからこそ、この場所には村ができた。実は、昔はこのケイオス村があるこの場所も魔物のはびこる魔境だったんだ」
え?
そうなの?
うちの爺さんやさらにその前の爺さんたちがこの村で生活を営んでいたと聞いていたから、最近まで魔境と呼ばれていた、なんてことはないはずだ。
だが、そうか。
この村は魔境を切り開いて作られた村だったのか。
「えっと、つまりは魔境と呼ばれる魔物がいる地域に魔物避けを持ち込んで開拓した村がこのケイオス村ってことですか。大変だったでしょうね」
「違う。そうではない。ここは魔物がいる地で、そこには魔王種がいたんだ」
「……は? 魔王、ですか?」
「魔王種だ。基本的には魔物は同種で群れることはあっても、種族が違えば敵対することも多い。だが、魔物の中にとびぬけた実力を持つ魔物が現れると、そいつは恐るべき統率力を発揮するようになる。そうして幾多の種族をまとめ上げ、一帯を支配する魔物を魔王種と呼ぶんだ」
へえ……。
ようするにあれか。
ゲームに出てくるようなラスボスの魔王ではなく、その地域に君臨するエリアボスみたいなものか。
「かつて、この地には魔王種がいた。その魔王種を人が倒し、そしてその遺骸から魔物避けを作り、その魔物避けの効果で今このケイオス村は魔物による被害なく生活ができている」
「そうだったんですね。ってことは、その魔物避けの効果が切れてきている、とか?」
「その可能性は考えられる。村長も村に設置してあるものを確認するだろう。だが、もしそれに問題がなければ、別の可能性が浮かび上がることになる。わかるか?」
「……村の近くに新たに別の魔王種が生まれた、とかでしょうか」
「そういうことだな。まあ、それを調べるには今の時季は悪すぎる。森を調べるためにも、人が入る必要があるから調査するにしても春になってからだろうな。というわけで、この話はここまでだ。学校にいた生徒への口止めは俺がするが、ライゼルもこのことは人にはあまり吹聴しないようにしてくれ」
結局は今は様子見しかできないってことか。
村長の方針は間違っていないというガウェイン先生の意見はそういうことも関係しているのだろう。
そして、まだなにも分かっていない今の段階でことを大きくしないためにも、他言無用ということだろう。
魔王種、か。
これまで魔物とはほとんど縁のない生活を送っていたが、この世界にはそんな存在がいたのかと驚いた。
俺は人には言わないことをガウェイン先生に約束し、家族にも黙っていることにしたのだった。
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