学校にて
「森に入っているのか? こんな時季に? 凍死、はしていないようだが指に凍傷でも起これば木こりの仕事もできなくなるだろうに」
真冬の森の中で氷菓樹の実という高級菓子兼健康食品を確保している俺だが、もちろん毎日森に入っているわけではない。
今日は雪こそ積もっているものの、降ってはいない日だった。
これまでに森に入った経験と祖母の教えを信じるならば、氷菓樹は雪が降っている日のほうが花が咲き、実になるようだ。
なので、晴れている今日は村にある学校に来ていた。
校舎に入り、誰かがやり残して放置している写本途中のものを見ながら、その残りをやるかどうか考えたりしつつ、まだ読んだことのない本にも目を通す。
教室には俺以外にも何人かの生徒がいるので、彼ら彼女らとも世間話をしながら、写本を進め、お昼になった。
そこで教室に登場したのが我らがティーチャーであるガウェイン先生だ。
相変わらず無精ひげを伸ばしつつ、まともに授業を行うことも少ない先生だが、何人かの生徒は聞けば答えてくれるガウェイン先生にいくつかの質問をぶつけたりもしていた。
本を一字一句間違えずに書き写すという苦行じみた作業を、勉強の一環として続けている彼らは俺よりもよっぽど勉強熱心だなと思いながら、俺は給食を食べていた。
そんな時に、ガウェイン先生との会話で俺が今の季節に森に入っていることを他生徒から聞いてあきれ返ったような声を出す。
「大丈夫ですよ。温かい恰好をして行ってますから」
「本当か? でも、斧も持って行くんだろう。森の中を歩くだけでもそうだが、斧を振ったりして汗をかくと体が冷えるはずだ。家族にも止められるはずだぞ」
「止められましたけど、ちゃんと許可はとってますよ。それに、俺、寒さには強いんです。風邪もひいたことないですしね」
たしかに普通ならガウェイン先生の言うとおりだと思う。
凍傷で手足を切断する、なんてことにならないとはいえない。
むしろ普通ならそうなってもおかしくはない。
が、俺の開発した闘気術は自分でいうのもなんだが相当に優秀だ。
外気功・属性強化で体を守れば寒さはかなり軽減される。
もちろん、雪に強くなるだけで気温の低下による影響はある。
だけど、前世知識を持つ俺は汗冷え対策もちゃんとしている。
貧乏な木こりではあるけれど、これまで稼いだお金で多少の服も買いそろえていたのだ。
外套として使える防寒具だけではなく、その内側に着るインナーのような服は速乾性のものを選んでいる。
多少汗をかいても服が濡れて体が冷えることはなく、冬の森を探索できている。
「だが、危険はあるだろう。気温だけではなく、森には野生動物もいる。冬眠せずに動いている動物にでも襲われてみろ。ほかの木こりがいない森の中で子ども一人は危ないと思うが」
「まあ、それはそうかもですね。スノーゴーレムなんかも襲ってくるから、すぐに逃げられるように気を付ける必要はあるんですよね」
「……スノーゴーレム? 魔物のか? 森の中で出会ったのか? もしかして、ライゼル、お前境界線を越えて森の奥に行っているんじゃないだろうな」
「違いますよ、ガウェイン先生。ちゃんとあの注連縄を越えない範囲です。冬になると村の魔物避けの効果も落ちるみたいですね。もう何回もスノーゴーレムと戦いましたよ」
「いや、それはおかしい。ちょっと一緒に来てくれ。その話を村長にもしてもらうぞ」
え?
それまでは呆れ顔で俺の話を聞いていたガウェイン先生が、急に真顔になり席を立った。
一瞬あっけにとられてぼんやりしていると、ガウェイン先生は俺の腕をつかみ、急かすように立たせた。
そのまま引っ張るように連れていこうとする。
ちょっと待ってくれ。
まだ、昼飯を全部食べていないんだけど。
そんなことを言いそうになったものの、さすがにそういう雰囲気でもないみたいだ。
俺は手を伸ばし残っていた豆スープの器を引き寄せて一息で飲み干してから、ガウェイン先生と一緒に村長の家に向かうことになったのだった。
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