氷菓樹
「お、あったあった。見付けた」
真冬の森を、一人で歩く。
村の外れを抜け、雪をかぶった森の中を歩き続け、お目当てのものを見つけた。
それは、この寒い冬の時期にしか手に入れられないもの。
氷菓樹の実だ。
普通、木といえば日光の多い時期に葉があり、寒くなりだすと枯れていくものだろう。
色づいた葉がすべて落ち、木々が眠りにつく季節。
それが冬だ。
だというのに、この森には雪の降る冬時分に逆に実をつける木が存在している。
それが氷菓樹と呼ばれる木だ。
この氷菓樹は細長く上に高く伸びている木で、深く雪が積もるような寒い日に、かつ寒さの強い日になぜかてっぺんに花を咲かせる。
そして、その花が実となり、これが食べられるのだ。
しかも、これがうまい。
野草に詳しい祖母が言うには、氷菓樹の樹液が実の中で凍っているのだそうで、皮をむいて食べると冷たくて甘い。
氷菓と呼ぶにふさわしいスイーツのような実なのだ。
しかも、この氷菓樹の実はおいしいデザートというだけではなく、薬効もあるのだそうだ。
樹液が凍ったものなのだからか、理由は分からないが、食べると舌触りは冷たいものの体の内部を温める効果があるのだという。
寒い冬に体調を崩した者はこの氷菓樹の実を食べることで体を芯から温めて病を治すことができると昔から言われている、と教えてくれた。
そんな氷菓樹の実を見付けた俺は、雪をかぶり樹氷できれいなこの細い木にロープをかけながらするすると登っていく。
そして、木のてっぺんにある実を根元からノクジルアックスで切りはなして回収する。
これは、俺も食べるが基本的には持ち帰り、祖父に食べてもらうつもりだ。
というのも、一緒に暮らしている俺の本当の爺さんが最近体調を崩していたからだ。
父や兄と同様に木こりとしてまだ現役で働いていた祖父。
この年の暖かい季節は元気だった。
だが、寒くなり始めたころに一度風邪をひき、そこから急に体調が悪い日が続いて今に至る。
その間も、俺が森の中で採ってきた野草や薬草などを持ち帰り煎じて飲んでもらっていた。
祖母からも祖父に効きそうな薬について教えてもらい、そのための材料をわざわざ採りに行ったりもした。
その甲斐あってか一度持ち直したかと思ったのだが、寒さがきつくなってきたタイミングで再び風邪をひいたのが悪かったようだ。
そんな祖父になんとか元気になってもらいたい。
そういう思いで、冬の寒い雪の降る日にしか手に入らない氷菓樹の実を採取しに来たというわけだ。
家族がこんなくそ寒い中を俺のような子どもが一人で森に入るのを心配しながらも許可しているのは、そういった理由があるからだ。
まあ、祖母はそれでも引き留めてきたけれど。
氷菓樹の実は薬効があるといっても現状の祖父の病状を完治させるような特効薬の材料ではない。
歳を取ったおじいさんのために、孫のライゼルが無茶をするものではない、と何度も言われてしまった。
だが、その件だけは祖母の言葉でも譲れなかった。
俺は外気功・属性強化によって雪の寒さを耐えることができるのだから。
できる力があるのであれば、なんとかしたい。
俺のほかに氷菓樹の実を採ってこれる人間がいない以上、自分がなんとかしたいと思ってしまったのだ。
ならばやるしかない。
じいちゃんが死んでしまったらもうできないのだから、後悔のないように行動しないといけない。
「でたな」
氷菓樹のてっぺんに登った俺がその実を回収し、降りようかとしているときだ。
周囲に異変が現れる。
それを見て、俺は木に巻き付けていたロープをうまく操りながら、素早く降りた。
そして、ノクジルアックスを構える。
この冬の森を自由に動き回れる人間は、たぶん俺くらいだろう。
だが、森の中で動ける生物はゼロではなかった。
いや、生物といえるのだろうか?
俺は目の前に現れた不思議なものから攻撃を受け、足場がしっかりしていない雪の上で足に力を入れて横っ飛びに回避し、そいつをにらみつけたのだった。
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