五色の気と鍛冶仕事
「やっぱり、火は赤色なんだな……」
「ん? なにか言ったか、ライ坊?」
「ううん。なんでもないです、ノクジルさん」
昨日、森の中で気の色について認識を改めた俺は、その翌日に火の色が赤であることを確認した。
それは鍛冶場でのことだ。
炉に入れた薪が燃え上がり、炎となっているところを内気功で目に気を集めることで、火それ自体に赤い気が含まれているのを目にしたのだ。
青・赤・黄・白・黒は木・火・土・金・水に対応している――ひとまずそう考えておこう。
もしかすると違うこともあるかもしれないが、そこまで気にしたら現状ではもうどうしようもない。
違ったら違ったで、今後軌道修正するとして……。
とりあえず今は、鍛冶仕事に集中することにした。
俺は今日は森に入らずに村の端にある鍛冶屋で勤務だ。
週に何度かはここでノクジル爺さんの手伝いをすることになっているからだ。
といっても、俺に手伝えることは少ない。
今よりも小さいときから鉈で薪割りをしていたことで、木こりとしてはそれなりに新人ながら動くことができるが、鍛冶師としてはまったく経験がない。
せいぜいが、自宅や材木ギルドでの刃物を研いでいたくらいしかしたことがない。
なので、現状の俺が鍛冶場でできる仕事は雑用や力仕事だ。
だが、これが結構やることが多い。
もう歳を重ねすぎた鍛冶師ノクジル爺さんは現役で動いているとはいえ、肉体的な力は全盛期よりも落ちていることだろう。
重たいものを運ぶのは、さすがに負担が大きそうだった。
なので、俺が物を運ぶ仕事を率先して行うために、鍛冶場の内外を行ったり来たりしながら重たいものを運んでいた。
そして、今は炉の火力をあげるためにふいごを使って風を送り込んでいる。
これも結構な重労働だ。
この鍛冶場にあるふいごは箱型の注射器のような仕組みになっているもので、手でピストン運動をさせることで風を送る。
そのため、腕だけでなく肩や体幹まで使う全身運動になる。
また、むやみやたらと風を送ればよいのかといえばそうではなく、金属を熱して鍛える鍛冶の仕事では、その金属に合わせた最適な温度というものがあるようだ。
風を送り込む量が少なければ炉の温度が低くなってしまい、逆に風を送りすぎれば温度は高くなりすぎる。
最適な温度を常に保つため、俺はノクジル爺さんの指示を聞きながらふいごを動かし続けた。
ノクジル爺さんは俺を鍛冶師にすべきだとギルマスに言ってここに来させるようにしたが、教科書を開いて丁寧に仕事を教えるというわけではない。
あくまでも職人として、自分の仕事を手伝わせて自ら覚えろというスタンスのようだ。
というか、多分ノクジル爺さん自身がそうやって仕事を覚えたのだろう。
なので、手取り足取り弟子に教えるという認識がないのか、あるいはどうやればいいのかがわからないのかもしれない。
幸いなことに、弟子だからといってむやみやたらと厳しくしようとすることはなさそうで、かなり優しく接してくれている。
厳しくしすぎて俺が来なくなったら困る、とでも思っているのだろうか。
まあ、そんなわけで俺はあちこちに動き回りながら雑用しつつ、ノクジル爺さんの仕事を見て、今何をして、それがどういう意図を持って行っているのかを考えながら覚えるように努めている。
気の色も観察していたのだが、この鍛冶場はなかなか面白い場所だった。
それは、森の中での木こり仕事と違い、すべての気の色を観察できることにあった。
金属を鍛えるための炉は赤色の気がほとばしる炎がある。
そして、その炎のもととなっている青色の気を内包する木材の薪や炭。
これから鍛える金属には白色の気が宿っている。
さらに、炎で熱して鍛えた金属を焼き入れするためには泥水も使うが、これには黒い気の水とともに泥のもとでもある土にあった黄色い気も見られるのだ。
すべての色の気が一か所に存在する。
が、それだけではない。
なんといっても、ノクジル爺さんは鍛冶師であると同時に魔術師でもある。
本人は謙遜していたが、ノクジル爺さんは火の魔術を使うことができる。
っていうか、本人だけなら別にふいごを使って炉の内部の火力調整なんかしなくても、最適な温度を魔術を使って保ち続けられるのだ。
あれは魔術が使えない俺に見せるために、わざわざやってくれているのだろう。
そんなノクジル爺さんだが、ふいごを使いつつも、なんだかんだで最終的には無意識に火力の調整を火の魔術で行いながら鍛冶を仕上げた。
火の魔術の行使とそれによる各色の気の変化を観察しながら、俺は鍛冶場での仕事に精を出していたのだった。
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