物質の経絡
木登りをして木の枝を落とす。
この作業が最近の俺の主な仕事となった。
ロープを使って木に登るのも最初よりもだいぶうまくなってきたように思う。
祝詞を唱えているためか、勘所を掴むのが速く、するすると登ってはばっさばっさと枝を落としていった。
この数日で、俺は体内の経絡の整備をあらかた終えている。
毎日の仕事の休憩中などや自宅での空いた時間に目を閉じて集中し、体内にある気を凝縮し、固体化するイメージで管を作り上げる。
体の正中線を通る経絡に加えて、お腹から手足に向かう経絡などを順次補強し、高速化することに成功した。
今のところ、二十六本の経絡がある。
これは、俺が今までの内気功で自分の体に感じていた気の流れの主要な道といえるだろうか。
さらに本数を増やそうと思えばできるのかもしれないけれど、これだけのルートが全身にあればとりあえず胴体から末端部までかなりの速さで気を巡らせることができるのでとりあえず完了とした。
というか、これ以上は気の沈殿がなくなって全身を気で満たすことができなくなりそうな感覚があるので無理だ。
今後は、この強化した経絡にさらに気を流し込み、より強固で流れの速いものへ育てていければと思う。
なんにせよ、体内での気の扱いはこれで一段落として、次に着手したのは外気功だ。
俺の持つノクジルアックスも経絡みたいな気の通り道を作れないだろうかと考えた。
現状では、刃物としては軽量で耐久性も低い隕鉄製の斧をなんとか普通に使えるように気で強化して使用している。
その際に、俺の手からノクジルアックスに気を送り込むのだけれど、それは斧全体を覆うように、纏わせるようにするのが外気功・外纏の基本だ。
この外纏を使い続けた結果、鉈も少し成長しているとノクジル爺さんが言っていたので、この斧もいずれは成長してくれるはず。
だが、ただでさえ弱い斧を傷めずに使用するために、俺は斧全体を気で纏わせるのではなく、主に斧の刃の部分とその表面を重点的に気を集めるように意識して使っていた。
普段は肌身離さずに斧を持ち歩いているときには全体的に覆い、木を伐るときだけ刃先を重点的にカバーするというわけだ。
つまり、斧を使用するときには気を操作しているということでもある。
これをさらに効率的に行うために、肉体内の経絡改造と同様に斧でもできないかと考えたわけだ。
だが、できるのだろうか。
俺は自分の体内の気の流れは幼児期から取り組んでいたおかげで深く理解しているといってもいい。
そのため、内部が空洞でその中を気が高速で通る管、なんてものを感覚だよりに作り上げることができた。
だが、そもそもノクジルアックスには経絡のような気の流れる道が存在していないと思う。
いや、あるのか?
もしあるのだとすれば、それを利用するなりしたほうが効率よくできるのだけど。
手に持ったノクジルアックスを見つめる。
これまでは、斧の刃先に気を集めるときには手が触れている木の柄の表面から金属部分に気が流れていっていた。
そうではなく、内部に気を高速で流せる道ができたほうが効率が良くなるんだろうか?
そうすると、問題がある。
このノクジルアックスは柄は木製で、刃部分は隕鉄という金属でできている。
なので、俺は自分の肉体とは違う、木と金属の二種類の物質に対して、高速で気を通す道を作りたいと考えていることになる。
「いや、けど木だったらいつも気の流れを見ながら切ってるよな。ってことは、木とか金属にも気が流れやすい場所があるはずで、このノクジルアックスもそうなのかもしれない、か」
改めて考えると、竹やカミマキの枝を落とすとき、俺は気の流れが悪くなっている弱点部分を狙って切っていた。
そのほうが切りやすく斧に負担がかからないからだ。
ということは、人間の体以外にも気は流れているということだし、それは斧に使われている材料も同じだと思う。
そう考えた俺は、さらに効率よく気を扱えるようにノクジルアックス内部の気の流れを精査することにしたのだった。
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