木こりの仕事
ノクジルアックスを背負い、森の中を歩く。
昨日作ってもらったばかりの俺の斧には、少しだけ変化が表れている。
といっても、闘気を糧にして成長した、というわけではない。
装備品が追加されたのだ。
隕鉄製の斧部分を覆うように革のカバーが付き、さらに木製の柄部分に肩紐が取り付けられている。
これは、昨日の俺の奇行を見かねた母や祖母が作ってくれたのだ。
家の中でまで斧を持ち歩く我が子にケガが無いように、というよりも物を壊さないでほしいという意味を込めて、安全装置の一環として作ったのだろう。
この二つの装備品のおかげで、俺は刃物を手で持ち歩く不審人物としてみられることなく、ギタリストのように革で覆われた斧を背負いながら村の中を移動し森に入ることができた。
家族には感謝しかない。
「今日の現場はここだ。いいか、ライゼル。お前は何度も森に来ているが、今日から初めて俺たちと一緒に仕事をすることになる。くれぐれも父さんの言うことをきちんと聞くように」
「もちろん。わかってるよ、父さん」
木こりとして森の木を伐り倒すことを許可されたと言っても、いきなり好きにやってもいいというわけではない。
なにせ、この森は木こりたちがギルドを作って管理している森なのだ。
共有財産でもある木々を勝手に傷つけることは絶対にしてはならない。
また、木を伐る行為自体が大変危険であるということもある。
人の背丈の何倍もある大木が伐られ、倒れてくる。
竹林でも十分に気を付けて作業はしていたけれど、さらに危険度の高い仕事だ。
自前の斧を用意して持ってきたとはいえ、子どもにいきなり任せられないのは当然だろう。
というわけで、今日の俺は一緒に現場までやってきた親父やギルマスたちの仕事を見て覚えることになった。
まずは、どの木を伐るかを木こり仲間で検討し、手順を確認していくのを手帳にメモしながら聞いていく。
「今日はカミマキを伐るんでしたよね、ギルドマスター」
「ああ。ガウェイン先生のとこから要望があったからな。村の学校に卸す分と、町に売る分を伐る必要がある」
カミマキというのは、この森で見かける木の一種だ。
そこそこ太い木で、子どもの俺が腕を回しても足りないくらいの太さがある。
この木は紙として使えるのだそうだ。
なんと、驚いたことに木を原料に紙を作るのではなく、木そのものが紙として利用できるのだとか。
伐ったカミマキを適当な大きさに輪切りして丸太を作り、その丸太を大根のように外周から皮むきしていくように上手に削り取っていくと、なんと紙が出来上がる。
俺が通っていた学校で写本作りに使っていた紙はすべてこのカミマキからできたものだそうだ。
どおりで、子どもたちが勉強の一環として本の複製をしていたわけだ。
この村では紙はそれほど貴重品というわけではないのだろう。
村の竹林で採れるケイオス竹も名物だが、この森で採れるカミマキから作ったケイオス紙も有名なのだそうだ。
そんなわけで、紙を生産するのに必須のカミマキについて、木の形や葉や根っこの性質、伐ってよい生育度の見極め方などを親父やギルマスの話を聞きながら、忘れないように記録していく。
その間にも木こりたちの作業が進んでいく。
木を伐るには斧を使って切れ目を入れるのだが、カミマキのようにある程度太さのある木は簡単には伐り倒すことができないし、倒れる方向も考えなければならない。
まずは木を倒す方向を決める。
そして、その方向に木が倒れるように受け口を作る。
これは太い木の中ほどまでで切れ目を入れておくことで、倒れる方向を決めるためのもので、どの程度の深さを作っておくかはある程度経験が必要だと言われた。
そして、受け口を作り終えたら、今度はその受け口とは反対側、つまり木が倒れる方向とは逆側から追い口を作る。
地面からみての受け口の高さよりも、追い口のほうがわずかに高めに切れ込みを入れていくのもポイントだそうだ。
うまく追い口を作れば、最後は木の自重で受け口側へ倒れていくので、その場を離れれば安全に木を伐ることができる。
そんな解説とともに、木こりたちが斧を振り、木を伐っていく。
森の中なのでほかの木と干渉しないように、うまく倒せる場所なども見極めながら行われていく作業はまさに職人芸といえるだろう。
「かっこいいね。父さんたちの仕事って」
「当然だろ。それに俺たちの仕事だ。もちろんそこにはお前も入っているんだぞ、ライゼル」
「うん。そうだね。じゃあ、次は俺も伐りたい。駄目?」
「うーん。わかった。だけど最初は今伐った木を寸法通りに丸太にしちまおうか。伐った木を村まで運ぶのも俺たちの重要な仕事だからな。きちんと売り物にできるように下手に傷つけずに丸太を作らないといけないから重要な仕事だ。ライゼルに頼めるか?」
「うん。やるやる。やりたいです」
どうやら、俺の最初の仕事は伐られたカミマキを持ち運びしやすい長さの丸太に切り分けることだそうだ。
だが、それでも十分だ。
このノクジルアックスがどこまで木を伐ることができるか、確かめることができるだろう。
こうして俺は、地面に横たわるカミマキへノクジルアックスを構えた。
俺の木こりとしての初仕事が、いよいよ始まるのだった。
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