高額商品
「は? 斧がひとつで金貨十五枚? え、冗談ですよね、ノクジルさん?」
「なにを言うとるんじゃ、ロンド。わしは鍛冶の仕事で冗談を言うたことなど一度たりともない。ライ坊からは銀貨一枚と銅貨二十三枚を受け取っておる。残りは材木ギルドから出すという約束だったはずじゃぞ」
「いえ、たしかにそう言いましたけど……。だけど、さすがに高すぎるんじゃないですかね? 斧一つですよ? まさかそれに金貨が必要になるだなんて、それも十五枚なんてあり得ないでしょう」
俺はノクジルアックスを受け取り、その代金を支払った。
俺がこれまでに貯めていた全財産を支払いにつぎ込み、残りはギルドが立て替えるという話でまとまっていた、はずだ。
だが、その精算でケイオス材木ギルドのギルドマスターであるロンドさんとノクジル爺さんが揉めている。
俺のノクジルアックスがあまりにも高額だったようだ。
多分、この村にいる木こりの中でも金貨一枚以上もする斧を持っているのはギルマスやそのほか数人というごくわずかな人数なのだろう。
おそらくギルマスも、多く見積もって金貨一枚程度だと思っていたのだろう。
しかも今回作るのは子ども用の斧のはずだった。
だから、もっと安く済むと考えていたのかもしれない。
だが、実際にはそうはならなかった。
他の木こり向けには使われることなく秘蔵されていた隕鉄。
その素材を使ったせいで、この斧の価格も相当なものになってしまったというわけだ。
大丈夫か?
今更払えませんといわれても困るし、このノクジルアックスをまともに使う前に手放すなんてことになっても困る。
それに、俺自身、あまりに高額なのも心配している。
まさか借金奴隷にされるなんてことはないと思いたいが。
「なんとか、まけてもらえませんか? いくらライゼルが有望株だといっても、その金額はちょっと……。ほかの組合員にも示しが付かなくなるんですよ」
「ふむ。ならば条件を付けてよいというのであれば、その交渉に応じてもよいぞ」
「条件、ですか? なんでしょうか。こちらで対応できる内容であれば、お聞きしますが」
「では、ライ坊をわしの鍛冶屋で働かせてもらおう。なに、材木ギルドから奪おうというわけではない。そうじゃのう、週に何日かをうちで仕事を手伝ってもらえれば減額交渉にも応じてもよいぞ」
「な、なるほど。ライゼルに鍛冶を手伝わせる。つまり、体で払ってもらう代わりに斧の代金を下げてもいいということですか。うーん。わかりました。こちらはその条件でもかまいません。ライゼル本人がよければ、ですが。……聞いていたな、ライゼル。お前ノクジルさんのところでいっちょ働いてきてくれ」
おおう。
そうなるのか。
っていうか、ノクジル爺さんは最初からこういう展開になることも考えて隕鉄で斧を作ったんじゃないだろうか。
だが、そうだとしても断る理由はない。
ギルドに対してあまりにも大きな借金があるのは困るというのもあるし、なによりこのノクジルアックスは今後もかなり手入れをしっかりしないといけないからだ。
斧としては不釣り合いなほど軽いこいつは、使い始めのうちは扱いを誤って傷や歪みを作ってしまうかもしれない。
成長させる前におしゃかにならないようにするためにも、プロの手がいつでも借りられる鍛冶屋での仕事は案外いいことかもしれない。
それに、魔術を使っての鍛冶を見れたのも面白かった。
俺が使えるわけではないだろうけれど、人生いつなにがあるかわからないしな。
手に職をつけるためにも、鍛冶仕事を覚えてみるのも面白そうだ。
「わかりました。じゃあ、基本は森で木を伐る仕事をしつつ、鍛冶もするってことで。よろしくね、ノクジルさん」
「ああ。ライ坊ならばきっとすごい鍛冶師になれるぞ。わしが保証するからな」
「困りますよ、ノクジルさん。ライゼルは木こりとしてうちに所属しているんですからね」
「ほっほっほ。なにを言うておるか、ロンドよ。この子ほど鍛冶の才能がある子もおらんじゃろう。将来のためにも今のうちから技術を仕込んでおくのが大事なんじゃから、邪魔するでないぞ」
やめて。
俺のことで争わないで。
なんてことを言うこともなく、その後はいくら斧の代金を減額するかで話し合いが始まった二人を見ながら、俺は今後のスケジュールについて考え始めることにした。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけけますと執筆の励みになります。




