ノクジルアックス
「ノクジルさんって魔術を使えたんだね。炉の温度調整は火属性の魔術を使ってたんだよね?」
「んん? せっかくの斧を目の前にして気になるのは魔術のことか、ライ坊? じゃが、そうだ。わしは鍛冶に魔術を使っておるよ。さ、そんなことよりもこの斧を持つんじゃ。軽く振って使用感を確かめて、気になるところがあったら言うんじゃぞ」
斧を作り上げたノクジル爺さんに魔術のことを一番に聞いたが、向こうにとってはそんなことはどうでもいいとばかりに斧を手渡してきた。
まあ、たしかにそうかもしれない。
せっかく作ってくれたものの感想を言う前に別のことに気を取られているなんてのは、製作者にとっても面白いことではないだろう。
ごめんと謝りながら斧を受け取り、感触を確かめる。
軽い。
一番に感じたのはこの斧の重さだ。
普通の斧よりも大きく、まるで武器のバトルアックスを連想させるこいつは、金属部分だけでも子どもの頭より大きいだろう。
だというのに、軽い。
ペットボトルよりも軽い。
おそらく百五十から二百グラム程度しかないのではないだろうか。
しかも、それは木製の柄も含めた重さだ。
金属部分だけなら驚くほど軽いことになる。
こんなに軽くて大丈夫なのだろうか。
斧としてきちんと機能するのかが心配にすらなる。
斧というのは木を伐るための道具であり、そのために必要なのは重さと頑丈さだろう。
遠心力を使って勢いをつけ、木にその刃を叩き込んで切れ目を広げていく。
そうやって使う道具のはずなのに、あまりの軽さに本当に木を伐れるのかと疑ってしまった。
だが、一振りするとまた別の感想を得る。
柄を握り、まずは縦に一振りした。
鉈で薪を割るときにしていた薪割りのフォームだ。
空を切るだけの素振りだったが、その軌道は思い描いた通りだった。
ぶれもなく、狙い通りに振り抜ける。
また、狙ったところでピタリと止まる。
バランスがいい。
竹を伐るための横振りのフォームも左右ともに行って感じたのは、この斧が非常に振りやすい重心を持っているということだった。
俺の手足の長さや筋力を考慮に入れたからなのだろうか。
全身を使った動きを邪魔することなく、狙いどおりの場所に刃先を持っていくことができた。
そして、無駄なく動きを止めることも可能であり、これならば何度も斧を振っても体力の消耗が少ないんじゃないだろうか。
また、外気功・外纏をしたときの反応もいい。
指先のツボから送り出した気が、ほとんど滞ることなく斧へと流れていく。
そして、その状態を維持しやすい。
なんというか、気の流れを邪魔しないのだ。
鉈の場合は外纏を行った際に発生する気のロスがこの斧ではほとんどない。
もしかすると、柄部分に使用された木材も俺が知らない上等な木を使ってくれたのかもしれない。
「最高だよ、ノクジルさん。ありがとう。こんなにいい斧を作ってもらえるとは思いもしなかったよ」
「そうじゃろうて。わしも長いこと鍛冶師をやっておるが、この斧は自分の人生でもふたつとない品だと言えるものじゃ。じゃが、その斧はまだ完成しておらん。これからのライ坊の人生でその斧を成長させて、本当にすごい斧にしてやってくれ」
「もちろんだよ。あ、それじゃあ、この斧にノクジルさんの名前をもらってもいいかな? この斧について聞かれたら、これから『ノクジルアックス』だって人に言ってもいいかな?」
「ノクジルアックス、か。いいのか? わしの名前なんぞ使って。ライゼルアックスでもいいんじゃぞ」
「ううん。俺はこの斧を作ってくれたノクジルさんの名前が似合うと思う。お願い、ノクジルさん」
「はっはっは。よかろうて。それならば、今よりその斧はノクジルアックスじゃ。ほれ、貸してみい。その斧に銘を入れてやろう」
俺の提案を快く受け入れてくれたノクジル爺さん。
そのしわの刻まれた手が再び斧を掴み、鍛冶場へと向かった。
そこで、金属部分と木製部分の接続部のあたりに対して、刻印を入れていった。
こうして、俺はノクジルアックスを手にすることとなったのだった。
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