鍛冶
(ノクジル爺さんって鍛冶師だけど魔術師でもあったのか)
鍛冶場で隕鉄を熱しては金づちで叩いて延ばす。
そんな作業を何度も繰り返す姿を見続ける。
すでに高齢であり、この世界でもいつ寿命を迎えるかわからない年齢になっているノクジル爺さんの背中は、服越しであっても鍛え上げられた筋骨隆々な背筋が浮き出ている。
金づちを振り下ろす。
ただそれだけの動作ですら芸術的に見える。
いつまでも眺めていられそうだった。
鍛冶場から出ていけとも怒られないことをいいことに、俺はそんなノクジル爺さんの作業を見守っていた。
そして、気が付いた。
隕鉄が炉に差し入れられる瞬間、毎回火が轟轟と燃え盛ることに。
使用している燃料は木炭だろう。
この村の森で採れる木材の中でもより高温を発することができる木を炭として使用しているだけあって、火力は安定しているはず。
なのに、金属に熱を加えようとするたびに、他に何も仕掛けがなさそうにもかかわらず、火力が上がる。
これはたぶん魔術なのではないだろうか。
火力の調整を行っているということは火属性の魔術か?
同じ火属性の素養を持つというガウェイン先生もこの村にいるが、実際に目の前で魔術らしきことを実践しているのを見るのは初めてかもしれない。
……鍛冶師って火属性の魔術が使えないとなれない、とかってことはないよな?
もしそうなら、俺は最初からノクジル爺さんの跡を継いで鍛冶屋の主になることはできないことになるんだけどな。
そんなことを作業を見ながら考えてしまう。
鍛冶は続く。
最初は不純物も混ざっていたであろう鉱石が、熱され、叩かれ、再び熱される。
そして、それを延ばしては折り曲げて重ねながら、だんだんと塊だった隕鉄が平らな板状のものに変えられていく。
そして、それをさらに繰り返していくと、次第に見た目が斧っぽい形になってきた。
そうして形が整ってきたところで、真っ赤になった隕鉄を泥水へと突っ込む。
ジュワッという大きな音とともに水蒸気が立ち上る。
超高温になっていた隕鉄を急激に冷やす作業というわけだろうか。
だが、それに使うのが泥水で、さらにその中に灰だとか藁なども混ぜられているのを見ると、何らかの化学反応も期待しての工程なのかもしれない。
その作業も数度、繰り返される。
そうして、出来上がった斧の形をした金属。
大きさはかなり大きいものになっている。
片側は鋭くとがるように伸びており、その逆側が扇状に広がるような形。
それを見て、再び数回金づちで叩いたノクジル爺さんは道具を金づちから砥石へと変えた。
扇状に広がっている部分を丁寧に研いでいく。
それまではただの金属としか見えなかったが、しっかりと研がれたことで切れ味鋭い斧としての体裁が整えられていく。
どうやら、隕鉄製の斧は持ち手までが金属ではないみたいだ。
作業場から物置へと移動して、ノクジル爺さんは木の棒を持ってきた。
持ち手は木製にするのか。
その木材を先ほど採寸した俺の身体データをチェックしながら、長さや太さをしっかりと墨で印をして加工する。
鍛冶師というのは、木工技術も優れているのかもしれない。
あっという間に木材が握りやすそうな太さに、振りやすそうな長さに整えられて、表面まで磨き上げられていった。
この柄だけでも職人の技が詰まっているのがわかる。
それだけで十分な価値があるように思えた。
そんな木製の柄を金属部分に接続する。
斧を作る過程で叩いて延ばす作業ばかりが目立っていたが、柄を差し込むための部分もしっかり加工されていたようで、木製の柄がガチっとはまった。
立派な拵えの柄の先についた怪しく光る斧を持つノクジル爺さん。
木こり用というよりは、まるで戦場で振るう武器のような斧が出来上がった。
バトルアックスと呼んだほうがいいんじゃなかろうか。
俺専用の斧として、そんな見事な一品が鍛冶師ノクジルの手によって生み出されたのだった。
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