鍛冶屋にて
「こんちわー。ノクジル爺さん、いるー?」
村のはずれにあるケイオス材木ギルド。
そこには大きな倉庫と呼ぶべき材木置き場がいくつもあり、その向こう側は森が広がっている。
その森には入らずに、さらに村から少し離れた方向にこの村唯一の鍛冶屋があった。
ノクジルという高齢の鍛冶師が材木ギルドから卸された木材を燃料にして、金属を鍛える音がいつもしている場所だ。
「ライ坊か。ロンドから話は聞いている。斧が必要なんだな?」
「うん。俺の斧を作ってほしいんだ。頼めるかな、ノクジルさん?」
この鍛冶屋の爺さんとは初対面ではない。
というのも、俺がギルドのメンバーの刃物なんかを研いでいたことに関して、以前やり取りがあったのだ。
木こりが使う斧や鉈、はてはノコギリなどの仕事道具はそのほとんどがこのノクジル爺さんが作ったものだ。
当然、その道具の手入れもここが請け負っているし、爺さんはプライドを持ってその仕事を行っていた。
それが、いつの日か、木こりたちが仕事道具のメンテナンスになかなか来なくなってきた。
めんどくさがって期間が空いたのかと思いながらも、村での鍋や包丁などの細々した仕事もあるために様子を見ていたら、ある日突然自分以外の誰かが研いだ木こりの道具が持ち込まれたというわけだ。
といっても、木こりたちは自分でも道具の手入れをする。
どの家にも砥石があって、最低限のメンテを自分でしているのだ。
そして、そのメンテでも追いつかないくらい切れ味が落ちたりすると鍛冶屋に持ち込み、研ぎのほか、必要があれば鍛えなおしも行う。
なので、ノクジル爺さんが研いでいない刃物が持ち込まれることは普通にある話なのだ。
しかし、それが今までと明確に違ったのは、複数の木こりたちが持ち込んだ刃物の研ぎには共通点があった。
あるいは癖というべきものだ。
木こりたちが自分の道具を自分でメンテしていたのであれば、それぞれ違う人間の手が入っていることがプロの職人であるノクジル爺さんにはわかる。
そんな鍛冶師の目から見て、木こりたちの道具は一人の人間が研ぎを任されている状態だということが明確にわかったわけだ。
そして、話を聞きだすとその研ぎはギルドに加入したばかりの小さな子どもに任せているというではないか。
当時のノクジル爺さんの怒りは相当なものだったらしい。
俺はそれを人づてに聞いて、詫びの品を持ってこの鍛冶屋に訪れたことがあったのだ。
「お前はまだ木こりをやるつもりなのか? いいか、ライ坊。お前には木こりよりも鍛冶師の才能がある。斧なんて自分で作ることもできるように教えてやるぞ。今からでも考え直して、わしの弟子に来い」
そんな俺とノクジル爺さんの関係だが、現在は非常によいものである。
というか、鍛冶師として俺の研ぎの腕を見たノクジル爺さんは、当時俺の研ぎにダメ出しをしつつ、きちんとしたやり方を色々と教えてくれた。
もちろん、正式な弟子入りではないので要点だけを伝える、という感じだったが、子どもどころか家族もいないこの爺さんは自身の腕を後世に伝える相手がいなかったので、そんなことがあった俺に思い入れができたのだろう。
それ以降、俺に何度となく弟子になれと言ってきてくれている。
「ありがとう、ノクジルさん。でも、ごめんね。鍛冶も面白そうなんだけど、今は木を伐るのが楽しくなってきたところだからさ。しばらくは木こりの仕事を頑張ってみるつもりなんだ」
俺のことを純粋に気に入ってくれているこの爺さんのことは、俺も好きだ。
だがしかし、だ。
いくらノクジル爺さんに好意を持っていたとしても、鍛冶の仕事がおもしろそうだとしても、この村の鍛冶屋を継ぐのはちょっと……、と思ってしまう。
なんせ、ここは田舎の村なのだ。
魔法や魔術の存在するこの世界で、村の人間相手に包丁や鍋を作って、木こりたちの道具のメンテを主に行う仕事というのは、今の俺にはちょっと物足りなく見えてしまう。
いや、ノクジル爺さんの仕事を悪く言うつもりは一切ないんだが、どうせなら赤ん坊の時に開発した闘気法を十分に発揮できるなにかをしてみたい。
今のところは、そんな俺の興味が木を伐って伐って伐りまくって、腹いっぱいにごはんを食べるということにあるのだ。
「ふん。まあ、いい。だが、いつでも鍛冶の仕事を教えてやるからな。木こりに飽きたらうちに来い」
「うん。その時はお願いね」
そんなことを言いつつ、俺は鍛冶屋で斧の製作についてを依頼すべく、話を始めることにした。
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