借金
竹林で竹を伐る仕事を卒業した俺は、次は森の中に入って本格的な木こりとしての仕事をする許可を得た。
これで、それまでよりもさらに金を稼ぐことができるはずだ。
竹と比べるのもなんだが、建材となる木を一本伐って売るだけでも相当な金額になる。
なので、早速今日から森に行きたいと主張した俺の意見は、ギルマスに却下されてしまった。
「ぶーぶー。なんでだよー。今日から行ってもいいじゃんか、ギルマスー」
「そういうなよ、ライゼル。なにも俺は意地悪のためにお前に明日から行けって言ってるわけじゃないんだぞ? というか、お前は明日から森で木を伐るつもりなら、今日はしておかないといけないことがあるはずだ」
「しておかないといけないこと? なんだろ。準備とかってこと?」
「そうだ。お前、まさかその鉈で木を伐るつもりじゃないだろうな? 竹くらいならそれでもなんとかなったんだろうけど、もっと太いしっかりした木を伐るとなると、その鉈じゃさすがに時間がかかりすぎるぞ」
「……そっか。じゃあ俺も自分用の斧を用意したほうがいいってことか」
「そういうこった。俺やお前の親父が持っている斧は大人が使うためのものだし、自分の仕事道具を子どものお前に貸す木こりはいないだろう。ってわけで、今日は鍛冶屋に行って、ライゼルの体に合った斧を作ってもらってこい」
「鍛冶屋さんか。っていうか、斧を作ってもらうお金、持ってないんだけどどうしよう……」
「大丈夫だ。ギルドからも話を通してある。手付金を払えば、残りの代金は後払いできるように頼んであるから行ってきな」
「まじか。ありがとー、ギルマス。じゃ、すぐに行ってくるよ」
木を伐るための斧。
薪割り用の鉈と違い、柄となる木の持ち手の先に重さのある金属を取り付けて、その遠心力も利用する。
そして幸いなことに、このケイオス村には斧を打てる鍛冶屋がある。
ノクジル爺さんと呼ばれる鍛冶師が昔からこの村で金づちを握って仕事をしている。
俺がこれまでにしてきた薪や柴拾いや森での採取品の売上、それに竹を伐った手間賃なんかは大部分が食費に当てていた。
育ち盛りで体も動かしている関係上、どうしても家での食事では不足していたので買い食いもしていたからだ。
なので、あんまりお金は残っていない。
が、完全にゼロというわけでもない。
さすがに前世の貯金大好き民族としての記憶と知識を持っているだけあって、その日暮らしの宵越しの金を持たない主義は怖かったからだ。
稼ぎの一割はギルドに預ける貯金として回していた。
きっと、そのお金のことをギルドマスターであるこのおっさんは知っているんだろう。
それが子どもの小遣いというには大金で、しかし、専門職である鍛冶師にオーダーメイドで斧を作ってもらえるほどの金額でもないことを知っているからこその提案だと思う。
多分、実質的には俺がギルドに借金するという形で、鍛冶屋のほうには俺が払えない金額を建て替えしてくれるということなのだろう。
子どもの身分で借金を作るのは怖さもある。
が、自分用の斧は欲しい。
なんといっても、祝詞を使って鉈を成長させた経験があるから、これから木こりとして働く以上ずっと使うことになる斧は誰からの借り物は避けたいところだ。
この話は乗るべきだ。
たとえ、借金で少しくらいギルドに頭が上がらなくなっても、自分の斧が手に入るなら安いものだ。
こうして、俺はマイ武器である斧を作るためにギルドに借金することに決め、その足で鍛冶屋へと向かっていくことにした。
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