タイパ
竹を伐る。
ノコギリを使って既定の高さで真横に切断面をつくりあげて伐っていく。
竹というのは成長すると高さが数メートルに達するので倒れてくるときに気を付ける必要はあるが、竹の太さに対してどのくらい切り口が到達すれば倒れるかもだいたいわかってきた。
そして、一段落する。
とりあえず伐りやすそうなところにあった竹を伐ってきたので、倒れた竹が邪魔になってきたのだ。
その竹を引きずりながら移動させ、竹林の外に並べておいた。
「意外と時間がかかるな……。鉈のほうが早く伐れるかな?」
今のところ、仕事にはなにも支障は出ていない。
が、竹を伐る作業をしていて気になるのは、やはりタイムパフォーマンスだろうか。
この仕事は時給でもなければ日給でもなく、ましてや月給などではない。
材木ギルドというのはあくまでも一人ひとりが自営業者である木こりが組合員として加入してできている互助組合に過ぎない。
ギルドの斡旋での仕事ではあるが、俺の稼ぎになるのは作業時間ではなく、伐った竹の本数だ。
なので、同じ仕事をするにあたり、いかに効率よく仕事を行うかも木こりとしての腕の見せ所になるんじゃないだろうか。
もちろん、仕事をするにあたって重要なのは時間効率だけではない。
というか、刃物を扱って行う以上、一番重要なのは安全だろう。
一に安全、二に安全、三四が無くて、五に安全。
これは俺に対してではなく次兄に対して親父が言っていた言葉だったか。
村の中での竹林管理と違い、魔物の出る可能性もある森での木こり仕事だから、多少意味合いは違うかもしれないけれど、それでもやっぱり安全第一であるのは間違いないだろう。
だが、今の俺はノコギリしか道具を持っていないわけではない。
このまま、ノコギリを使っていてもしばらく続けていればより効率のいい伐り方や動き方を掴んできて一本を伐るのにかかる時間も短くなっていくだろう。
けれど、俺はここらで一つノコギリではなく鉈へと持ち替えることを検討し始めた。
その理由の一つは、俺がノコギリよりも鉈のほうが扱いなれているということにあった。
俺がこれまでの人生で一番扱ってきた道具というのは、やはり鉈だ。
ノコギリは砥石で研ぐときに使いはしたし、その研ぎがきちんとできているかを確かめるために木材を切るのに使うことはあった。
だが、何千、何万と薪割りを繰り返してきた鉈の扱いとは、積み重ねてきた経験が違う。
なんせ、この鉈はほかの道具と違って、俺が祝詞で成長させたものだしな。
このオリジナルの祝詞を作ってから、毎日のように行う薪割りで必ず「汝、闘気を糧とし、力を得ん」と唱えて俺の気を送り込んできたことで、通常時でも闘気を内包した状態を維持している。
この鉈なら、ノコギリよりもスパッと伐れるのではないか。
そんな期待を込めて、ノコギリをしまい、鉈を持つ。
やはり、しっくりとくる。
鉈の持ち手に手を添えているだけでも感覚が違う。
が、構えだけはいつもと異なる。
薪割りでは上に振り上げて構えてから下に振り下ろす動作だった。
しかし、竹を伐るにはそうはいかない。
横に振りきるために左右の足を開いて立ち、体の右側に鉈がくるように構えを取った。
「我、この経験を糧とし、力を得ん」
そして、竹を伐る前に祝詞も唱える。
ノコギリでのときにも唱えていたが、鉈でも竹を伐る技量をあげるためにつぶやいた。
今の俺は魔物を倒すとき以外にもこの祝詞は効果があるものと思っている。
「ハ!!」
掛け声をかけ、鉈を振るう。
ガッという音が鳴り、竹に鉈が食い込んだ。
駄目だ。
いつもと違うフォームだからか、体全身の力がうまく使えていない感じがする。
しかし、それでも。
俺が振るった鉈は竹に食い込んでいる。
一振りで大きく切り込みを入れることには成功している。
どうやら、ノコギリをギコギコとやるよりは早く竹を伐ることができそうだ。
それにまだまだ伸びしろがある。
そう判断した俺は、それからは得物を鉈に持ち替えたまま、竹を切りつけ続けたのだった。
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