魔物とは
俺がまだ乳幼児だったころ。
親が唱えた祝詞を自分でも赤ちゃん言葉で唱えてから母乳を飲むと、体内に気を取り込むことができることに気が付いた。
そして、それ以降は毎食欠かさず祝詞を唱えていた。
そのとき起こった変化は、体内の気が容量いっぱいになったのか、飽和状態とでも言うべき状態になり―――そして俺のお腹には、気の塊のようなものが残った。
俺は、その気の残置物が体内にあってもいいものなのか判断できなかった。
そのとき俺が選んだ最善の方法は、積極的に気を消費し、その塊ごと使い切ることだった。
その甲斐あってか、内気功に加え、ハイハイや水汲み、薪割りといった運動を続けた結果、俺は現在風邪ひとつ引かない健康優良児として成長できている。
そんな俺が再び体内の気が飽和状態となり、わずかではあるが、お腹の中に違和感がある。
食事よりも気を取り込むことができる煎じ薬を祝詞を唱えてから飲むという最近の生活習慣による変化であることは間違いないと思う。
これは果たして大丈夫なのだろうか。
薬の大量摂取は良くないと思うが、摂取できる量を考えれば、俺の感覚ではせいぜい青汁健康法くらいに思う。
なので、「これくらいなら大丈夫なのではないか」という気もしてしまう。
「ガウェイン先生って魔法とか使えないんですか?」
そこで、直接聞くことにした。
薬について教えてくれた祖母にではなく、俺の知る中で最も博識で、しかも質問に答えてくれる人物に。
材木ギルドに加入してからほとんど毎日森に入っていた俺だが、まだ学校に通ってもよいという許可はあるので、その学者先生に質問をぶつけに来たというわけだ。
赤ん坊の頃の俺は、祝詞を唱えることで体内に取り入れることができた気を、最初は魔力かと思っていた。
だが、それは今では自分の中で気というものとして認識している。
これはひとえに、赤ちゃんのときには誰にも聞けなかったからでもある。
そしてその習慣は、ある程度大きくなり、言葉を発してもおかしくない年齢になっても続いていた。
家族のだれもが魔法を使っているところを見たことが無かったからだ。
もし、誰かが魔法を使っていれば気にせずに聞いていたのかもしれない。
が、その機会がないままに、俺は身体機能を伸ばす効果もある内気功などの闘気術を自分だけで磨き上げてきた。
それでも、魔法への興味が消えたわけではない。
体内に起こった変化も関係して、いい機会だと思っての質問だった。
「人間は魔法を使えないぞ、ライゼル。魔法を使うのは魔物たちだ」
「え? そうなんですか? っていうことは、魔物は全部魔法使いってこと? 森の奥に出てくるんですよね、魔物って」
「いや、すべての魔物が魔法を使うわけではない。むしろ、明確な魔法と呼ばれる現象を行使する存在のほうが少ないはずだ」
「んん? どういうことですか? 魔法を使わない魔物もいるってことですか」
「そうだ。俗に言えば、ものすごく強い動物、と言えるかもしれない。攻撃が強かったり、防御が硬かったり、素早かったり。いろいろだ。だが、魔物の特徴は、腹を捌けば分かる。体内に魔石があるのが魔物だ」
「へえ……。魔石ですか」
「ああ。魔石がある存在を総称して魔物と呼び、魔物の中には魔法を使えるものがいる。そして、そんな魔法を人間も使えないかと研究して生み出されたのが魔術だ」
なるほど。
昔から家族間で魔物や魔法という単語が会話内にときおり出てきたのはそういうことか。
木こりをしている親兄弟は魔物が潜む森での生活をしている。
当然、そういう単語が出てきてもおかしくはない。
が、その家族では人間が魔法を使えるように発明した魔術とやらを使える者は誰もいないために話題に上がらなかったのか。
やはり、物知り博士に質問をしたのは正解だったようだ。
人間が魔法を再現した技術――魔術。
その言葉に、胸がわずかに高鳴った。
俺はさらに詳しく話を聞くために、姿勢を正したのだった。
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