鑑定水晶
「今の話を聞くと、人間は魔法を使えないけど魔術は使えるってことでいいんですよね?」
「そのとおりだ」
「じゃあ、俺も魔術が使えるってことですか? どうやったらいいんですか、ガウェイン先生」
「……ふむ。なら、調べてみるか。ライゼルが魔術を使えるかどうかを」
魔法というのは魔物が使うものであり、それに対して人間は魔術を使える。
ガウェイン先生の話を聞くだけでは、魔法と魔術の違いが今はよくわからない。
だが、話ぶりからすると魔法のほうが魔術よりも上位に位置するものなのだろう。
魔法という超常現象を人間が使えるようにするために研究して編み出したのが、下位互換の魔術という方法に違いない。
そんな魔術だが、人間が使えるように開発した以上、当然俺にだって使える可能性はあるだろう。
そう思って、先生へと尋ねると、「調べてみよう」と言って立ち上がり、部屋を出ていった。
どこに行ったのかと思ったが、調べるには何か道具が必要なのだろう。
それを取りに行ったのかもしれないと思い、その場でしばらく待つ。
すると、再びガウェイン先生が部屋へと戻ってきた。
その手には、丸い水晶玉があった。
「もしかして、それで魔術が使えるかどうかが分かるんですか?」
「ああ。こいつは鑑定水晶だ。といっても、これはあくまで簡易版だから、調べられるのはどの属性を持つか、あるいは魔術を使える素養があるかどうかだ。だが、今はそれでも十分だろう」
机の上に水晶玉を置く。
傷つけないためか、あるいは汚さないためか、ガウェイン先生は分厚い布越しにその水晶玉を持っていたが、机に置いた際にその布を完全にどけた。
そして、改めてその鑑定水晶をガウェイン先生のしっかりとした手でつかむ。
すると、それまで透明だった水晶の中心部分に変化が現れた。
「色が変わった。赤い色が見えますね」
「ああ。これは俺に火属性の魔術を使える素養があることを示している」
「へえ。色で分かるんですか。じゃあ、例えば水属性だと青色に変わったりするんですかね?」
「いや。青色は木属性だな。水は黒だ」
「ふーん。そうなんですか。……で、触ってもいいですか? 楽しみです」
「本当なら調べるだけでもそれなりに料金が発生するものなんだがな。まあ、ライゼル、お前ならばいいだろう。傷をつけないようにゆっくりと触れるだけでいいからな」
胸が高鳴る。
どんな反応があるんだろうか。
その水晶玉のほうへとゆっくりと手を伸ばす。
そして、触れた。
指先から滑らせるようにして、手のひらで包むように、けれどガシッとつかむことはなく、そっと触れるだけにとどめる。
「……色、変わってますか、これ?」
「いや、なにも変化なしだな。残念だ、ライゼル。お前には魔術の素養はないようだ」
「いやいやいや、そんな馬鹿な。ちょっと待ってください。こっからですよ。ここで俺が気合を入れて本気出すんで、見ててください、先生」
「駄目だ。こいつは簡易鑑定水晶とはいえ、値段が張る。これ以上は無駄だ。もう触るな」
……変わらない。
まるで、最初から何もなかったかのように。
ガウェイン先生が触った時にはすぐに赤色に変化した水晶玉。
だが、俺が触ってもピクリとも反応しなかった。
嘘だろ。
俺には魔術を使えないってのか。
心臓が嫌な音を立てた気がした。
そんなはず、ないだろ。
まさかの結果に、もう一度試させてくれと食い下がる俺だったが、ガウェイン先生は無情にも鑑定水晶を取り上げ、布で包んで部屋から持ち去ってしまったのだった。
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