常飲
「我、この命を糧とし、力を得ん。いただきます。……うーん、まずい。けど、もう一杯」
祝詞を唱えてから、口に含んだ液体をゴクゴクと飲み干す。
あまりにも苦いその液体は舌を通る瞬間、逆流して口から吹き出しそうになる。
が、それを我慢して一気に喉に流し込み、体内へと取り込んでいく。
一口をしっかりと飲み込みながら、俺は再び苦い液体を口に含んだ。
初めて煎じ薬を飲んでから、俺はその薬を常飲するようになっていた。
理由は一つ。
祖母から教わった薬が、祝詞を唱えてから飲むことで、普通の食事より多くの気を取り込めると気づいたからだ。
ばあちゃん直伝の煎じ薬を飲むと、体内の気の巡りが良くなり健康な体になる。
だけど、俺は物心ついたときから、薬に頼らずに自分の力で体内の気の巡りをよくする内気功を行っていた。
その内気功のおかげか、昔からあまり大きな病気になったことはない。
そんな俺でも、煎じ薬を飲むことでいつも以上に気の巡りが良くなったように感じる。
だけど、それは祝詞を唱えなくて飲んだ場合の反応だ。
普通の食事も同じだが、同じものを口にしているのに、祝詞の有無で影響が変わるのはなぜなのか。
その理由はわからない。
だが、その効果の差は自分の体で確かに感じている。
祝詞を唱えてから薬を飲むことで、今まで以上に大量の気を取り込むことができるようになった。
毎日、木こりたちについていき、木を伐っている現場仕事の近くから離れないように移動して薪や柴を集めていく。
そして、その時に薪だけではなく食べられるものも採取していった。
祖母から聞き取った情報をもとに、その時期に採れる食用や売り物になる素材を見つけては、正しい手順で採取をする。
だが、そのなかで煎じ薬になる材料は家族での食事や商人への売り物ではなく、自分だけのために消費していた。
毎日、集めた薬草類を煮詰めて煎じ薬を作り、飲む。
苦いのを我慢して、祝詞を唱えた後にグッと飲みこむ。
苦い飲み物の代名詞である青汁すら可愛く思えるほどの、草の匂いしか感じない、謎の液体を飲むのは苦痛でしかなかった。
だが、それでも俺は毎日飲んだ。
体内に取り込める気の量が煎じ薬を飲むようになってからさらに増えたからだ。
普通なら飲みたいとは思えないこの薬を続けられるのは、効果を実感しているからだ。
というか、ほかの家族のだれもが俺のことをおかしな子として見ていた。
俺に薬のことを教えたばあちゃんですら、「それは風邪の時に飲むだけじゃよ」と心配そうに言い、飲むのをやめるように言ってきたものだ。
が、それは裏を返せば、ほかのだれもが欲しがらないということでもあった。
例えば食事で気を増やそうとすれば、兄弟げんかは避けられない。
だが、この苦くて飲みにくい煎じ薬なら、強欲な兄たちも手を出さない。
しかし、いくら薬といっても毎日飲むのは大丈夫なのか。
その不安はあった。
薬というのは風邪などの病状を治してくれるいいものではあるのだけれど、逆に言えば肉体に影響を与えるものでもある。
薬というのは毒と表裏一体なのだ。
……このまま続けたら、どうなる?
そんな考えが、一瞬だけ頭をよぎった。
何ごとも、やりすぎるとよくない。
そのためか、俺の体は煎じ薬を常飲するようになり、続けるうちに体内の気の量は増えていく。
そして――再び、飽和状態に達した。
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