煎じ薬
「うげぇ。にがーい」
「はっはっは。そりゃそういうもんさね、薬っていうのはね」
祖母の「森の恵み採取講義」が一区切りついた後のこと。
俺が耳にした情報を忘れないうちに紙へ書き記している間、ばあちゃんは家の物置をゴソゴソとあさっていた。
そして、そこから取り出した物をまとめてすり鉢でゴリゴリと擦り、そして煮る。
乾燥した木の根や草をすり潰したものを煮詰めていき、最終的に出来上がった臭いの強い液体。
それを飲めと、俺に器に入れて渡してきたのだ。
いろんな草の臭いが凝縮された独特の香り。
大人ならまた違った感想を持つのだろうか。
子どもの俺には、それがただただ臭かった。
だけど、わざわざ祖母が作ってくれたものだ。
これが毒なはずもないし、嫌がらせというわけでもないはずだ。
なので、覚悟を決めて飲んだ。
口に入れる瞬間も、強烈な臭いをグッと我慢する。
だが、その次の瞬間にはさすがに耐えきれず、声が漏れてしまった。
舌に触れた瞬間、えぐみが一気に広がる。
まるで草そのものを噛み潰したような味だった。
あまりにも苦い味だった。
とても飲めたものじゃない。
そう思いながら、器から口を離し、腕で唇をゴシゴシと擦る。
もっとも、そんなことではこの苦さは一ミリも解消されない。
そんな俺を見ながら、さも当然のように、臭いがきついものだという祖母。
「薬? これが?」
「そうじゃ。これは体から熱が出たときなんかに飲むとよく効く薬じゃよ。昔から熱が長引いたときにこれを煎じて飲むんじゃ」
「へえ。漢方薬みたいなもんか」
そういえば、前世でもそういう薬があったような気がする。
俺が思い浮かべる薬といえば、前世の記憶からか錠剤をイメージする。
ああいう薬は確か薬効のある成分を特定してそれを抽出することで形にしていたはずだ。
だが、そういう薬とは別にいろんなものを煎じて飲む薬もあった。
いわゆる、漢方薬のようなものだ。
といっても、俺が飲んだことのある漢方薬は粉状のタイプだ。
あれは、そんなに臭いがきつかったという記憶はない。
が、本来の漢方薬というのは粉になっていない、それこそ祖母がやったような生薬を煎じて飲むものが当たり前で、当然、臭いもかなりきつかったのだろう。
「あ、もしかして、症状に合わせて入れる材料を変える感じ?」
「そうじゃな。症状に合わせられるように薬の材料を乾燥させて置いてあるし、使い分けることが多いね。まあ、わしらは薬師じゃないから、そこまで詳しいわけじゃないからのう。簡単なものしか作り方は知らんよ」
なるほど。
伝統的に受け継がれた民間療法って感じなのかもしれない。
しかし、これが薬だとして実際に効果があるんだろうか?
話のついでにわざわざこの薬を作ってくれたみたいだけど、今の俺は健康体であり、特に熱があったり風邪をひいているわけではない。
なので、きちんと効くのかを感じ取ることはできないだろう。
……いや、そうでもないのか?
ばあちゃんが作ってくれた煎じ薬を飲んでから明らかに体がポカポカしてきている。
きっとこのポカポカが発汗を促して、その汗が蒸発するときの気化熱かなにかで熱でも下げるのかもしれない。
が、それ以上に俺は体に感じ取れる変化を見つけた。
……内気功を、強制的に促している?
体の奥を、温かい何かがゆっくりと巡っていく。
いつもは自分で動かしている“気”が、勝手に流れている感覚だった。
煎じ薬を飲んでから、体内の気の巡りが良くなった。
普段から自分で内気功を行っているけれど、薬を飲むことでその働きを助けてくれるみたいだ。
さっきから全身を気がよく流れているのを感じる。
もしかすると、この気の流れを改善する効果が発熱を抑える効果に繋がるのかもしれないな。
っていうか、俺は今まで自分で内気功をしていたからか、大きな病気どころか熱もまともに出したことが無い気がする。
いや、熱が出てもすぐに治っていたのかもしれない。
祖母の煎じ薬を飲みながら、俺は今更ながらに自分が健康的に育ってきたことに気が付いたのだった。
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