講義
「これはまた、珍しいものを持って帰ってきたもんだね。このキノコは食べられるけど、商人に売れば高く売れるはずだよ」
俺が薪拾いのついでに持ち帰ったキノコ。
木こり仲間が森へ出ている間、浅い場所で拾い集めていただけだが、手に入れた種類はそれなりに多かった。
そして、そのキノコの中の一つの種類を見た祖母が確信をもってそんなことを言う。
「えっと、それは確か赤天狗鬼キノコ、で合ってるよね? そういえば食用になるってことしか気にしていなかったけど、薬にも使えるキノコだったっけ?」
「そうだよ。内臓の働きを整える薬の材料になるけど、あまり頻繁に手に入るものでもないから、売ればいい値で買い取ってくれるんじゃないかね」
「へー。さすが、キノコに詳しいね、ばあちゃん」
「そうじゃろう。伊達にこの村で長生きしとらんて」
年の功とは、まさにこのことだ。
俺は食い気ばかりが優先していたが、考えてみれば森の中には売り物になるものもあるのか。
薬効が期待できる薬の材料ということであれば、この赤天狗鬼キノコは、商人が買い取ってこの村からよその町へと持ち込んでそこで売るなり、薬にしてさらに別の大きな町に売ることもあるのかもしれない。
もしそうなら、食べ物とは違って少量でも高価な品物として取引もできるんだろう。
「じゃあ、これは売りに出そうかな。っていうか、ばあちゃん。他にも森で取れて高く買い取ってもらえそうなものってあるのかな?」
「もちろんじゃて。そうじゃのう。ライゼルはキノコもきれいに集めてきおったから、そういう採取も上手にできそうじゃし、薬草なんかを採ってこれるように教えてあげようかね」
「うん。ありがとー。ばあちゃん、大好き」
「はっはっは。相変わらず口がうまい孫じゃて。ほれ、こっちにおいで。早速教えてあげようかね」
俺がまだ学校に通う前から文字についてを教えてくれたりした祖母のことを俺は好きだ。
祖父や父、あるいは兄たちは木こりとして仕事に出かけていたから家にいる時間は限られていたし、これまで一番よく会話する機会があったのもこの優しく物知りなばあちゃんだ。
まあ、ばあちゃんと呼んではいるけれど、年齢的には五十代くらいなのだけど。
この村は皆結婚するのが早いからか、祖父母の年齢も結構若い。
が、これまでの生活で苦労はあったのだろう。
少し腰が曲がり、手も皴が多い。
そんな祖母のもとへと近寄り、身を寄せるようにして話を聞く。
どんなものが売り物となるのか。
キノコはもちろん、薬草や木の実、葉っぱや花などなど。
比較的いつでも採れるものもあれば、時期によって採れたり採れなかったりすることも教えてくれる。
さらにいえば、森の中でもおおよそどのあたりにあるのかの植生についても、簡単ではあるが教えてもらえた。
結構、情報量が多い。
小さな子どもに語り聞かせるというよりは、立派な講義と呼んでもいいほどの情報量だ。
頭だけで覚えるよりはと思い、途中からは家に置いてあった数枚の紙に羽ペンで細かくメモをとって記録していくことにした。
さらに祖母の講義は続く。
商人に売るのであれば、採取の際にそれぞれに適した手法で採ることが大事だとも教わる。
単純にちぎって持って帰ればよいものもあれば、それが生えている土がついた状態の根っこごと持ち帰る必要があるものや、あるいは再度採れるように根っこは土に残った状態で採らなければならないものなど、いろいろと聞いていく。
はたまた、売る前に天日で乾燥させたりだとか、一度熱湯につけて熱を加えたほうが長持ちする、なんて情報まで登場した。
俺はそれを確認しながら、すべてを紙に書き記していったのだった。
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