境界線
「いいか、ライゼル。この森でお前は薪拾いをしていいが、間違っても木を傷つけるんじゃないぞ。ここにある木は俺たち木こりの、ケイオス材木ギルドのものだからだ」
村から森へ。
ギルド加入初日に早速来た森を目の前にして、親父が俺に教えてくる。
この森は広大で、奥に行けばさらに木々が生えている。
そういう意味では、いくら木こりたちが伐っても森がなくならない程度にはあるらしい。
が、だからといって、無秩序に木を伐ることは許されていない。
それは、この森には魔物がいるからだ。
村には魔物を遠ざけるためのものがあり、それは村の中央から同心円状に効果を発揮している。
そして、その効果範囲は中心点から離れるほどに効果が薄れ、そして範囲外では効果は消える。
それは森の中でも同じだという。
つまり、広大な森の奥に行けばいくらでも木があるけれど、魔物が出現するために危険がある。
が、逆に言えば魔物避けの範囲内であれば森の中であっても安全に木を伐ることができる。
そのため、木こりたちは皆その効果範囲内で木を伐りたがることとなる。
ケイオス村は小さいとはいえ、限界集落というわけではない。
材木ギルドに所属しているだけでも数十人は木こりがいる。
なので、皆が安全を求めて村から近い場所で木を伐れば、さすがにそれではいずれ木は枯渇してしまうことになる。
また、地形的に木を伐りやすかったり、伐った木を運びやすいところは限定される。
つまりは人気スポットというものがあるわけだ。
というわけで、魔物という存在がいるために、木こりたちは活動範囲が制限されており、安全を求めて仕事をしようとすると木こり同士で揉め事が起こる可能性が高いのだ。
そんなトラブルを未然に防ぐために、村から一定範囲の森の木はギルドが管理することとなっている。
そのため、今俺がいる場所の木などを勝手に伐ろうとしたり、傷つけたら問題となる。
親父たちが俺をなかなかギルドに加入させなかったわけだ。
いくら子どもでも、売り物になる木を傷つけたりしたら、それは親の責任、あるいはその家族の責任にもなるわけだ。
家の仕事を任せるくらいに信用されているのに、なかなかギルドに紹介してくれなかったのはそういうことも関係していたのだろう。
というわけで、初日は薪を拾いつつ、親父の先導のもとに森の奥へ分け入って歩く経験を積むことになった。
親父と一緒にしばらく歩いたときだった。
森の奥に、奇妙な光景が見えた。
そこには、木々に縄がくくられている場所があった。
異様な雰囲気だ。
いくつもの木と木を結ぶようにロープが張り巡らせており、もしこのロープが黄色かったらキープアウトのテープのように見えたかもしれない。
が、俺はその縄がまるで人間の世界と魔物の世界を分ける結界のように見えた。
「この縄は目印だ」
「目印? ギルドの管理している範囲ってこと?」
「そうだ。それと同時に、村の魔物避けの効果範囲の目印でもある。ここを越えると魔物が出やすいんだ。だけど、こっち側が絶対に安全ってわけでもない。くれぐれもこの縄を越えることはないようにして、こっち側でも誰かほかの者と一緒に行動するようにしろよ、ライゼル」
「うん。わかった。約束するよ」
やっぱり、これは結界みたいなものなんだな。
この縄自体にそういう効力はないのかもしれないけれど、明らかな境界線があるっていうのは不気味だ。
森の中は上に伸びる木々のほかにも枝や草などが覆い茂っているからか、鬱蒼としている。
それでも、この注連縄のこちら側と向こう側では雰囲気が全く違う。
とても自分からこの境界線を越えて魔物を見に行こうとは思えない。
ごくりと唾を飲み込みながら、俺は縄の向こうに恐怖を感じながら視線を向け続けたのだった。
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