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異世界に転生したけど、木こりをやってます ~斧と闘気で生きる辺境開拓ファンタジー~  作者: カンチェラーラ


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 学校に通い始めてから俺の生活がガラッと変わったかと言えば、そういうわけではなかった。

 なぜなら、これまでどおりに家庭内労働をこなしているからだ。

 朝から水汲みを行い、薪割りもやる。

 刃物の研ぎは一通り終えていたので、それ以降は一つ一つを長時間かけてやることはなく、日々状態を確認し、悪くなったものや悪くなりそうなものだけをメンテするくらいに減っている。

 が、それでも通学前からやっていた作業の量自体は変わらずやるようにしている。


 というのも、もしも家での仕事を学校に通うことを理由にやらなくなったら、食事の量を減らされるかもしれないと考えたからだ。

 いくら学校で昼飯が出るとはいえ、それはあくまでも補助的なものにしかならなかった。

 だから、朝晩の食事量を減らされるかもしれない原因を生み出さないためにも、俺は家でも腹いっぱい食べられるだけの仕事量をこなすことにしていたのだ。


 そのため、以前は一日の大半をかけて行っていた作業を、通学前に終わらせるべく頑張った。

 水汲みも薪割りも時間が短く済むように急いで行うが、薪割りなどは早く終わればいいというわけでもない。

 きっちりと鉈を木材に当てて割るためには正確なフォームを崩してはいけないからだ。

 きちんと薪を割ることができずに割り箸のように細い切れ端を量産してしまっては意味がない。

 だから、速さを求めても正確性を失わないようにこれまで以上に集中して仕事を終わらせる。

 そうして仕事にかかる時間を減らしつつ、学校では写本作業を続ける日々が続いた。


 そして、俺が学校に通い始めてから、気づけば二年以上がすぎていた。

 気がつけば、俺はもう七歳になっていた。。

 この二年でなにかが大きく変わったというわけでもないけれど、俺は一日三食を食べられるようになり、それなりに大きく成長できたと思う。

 学校に通い級友との仲はそれなりだろうか。

 最初に話した男子生徒はこの二年の間に通学をやめていた。

 ほかの子たちも似たり寄ったりだった。

 さすがに昼飯目当てであっても、苦行に近い写本作業は長続きしないのだろう。


 だが、俺は続いた。

 この二年で結構な数の本を間違いのないように書き写し、本として売りに出されてもいるはずだ。

 最初は文字を覚えるために辞書を書き写したが、それ以外の本も書いている。

 ちなみに一番書いているのは聖書だ。

 町で本が売れるといっても、本自体がそれなりに値段がするので大衆向けの小説なんてものはそこまで流行らないみたいだ。

 かといって、専門的な書物も売れ筋ではなく、結果としてどの町にもある教会が信者に対して広めるためにも使う聖書が一番売れるらしい。

 この学校では生徒に写本させるのはそんな聖書がメインで、途中で通学しなくなった生徒が書きかけで残していった聖書を完成させるために俺が作業をさせられたことで、俺自身が一番携わることの多い本も聖書となってしまったわけだ。


 しかし、今俺がしている作業はそんな聖書の写本を作ることではなかった。

 いや、そもそも、写本というすでにある本を書き写す作業でもない。

 というのも、俺はここ最近、自分で新しい本を執筆していたのだ。


 オリジナル小説を書いている、というわけではもちろんない。

 というか、紙やインクは学校のものを使っているので、売れもしないであろうことを勝手にすることはできなかった。

 だが、既存の本を丸写ししているわけでもない。

 なにをしているかというと、新しい辞書を編集しているのだ。


 俺が学校に通い始めて最初に行った辞書の写本。

 その辞書以外にもこの学校にはいくつかの辞書が用意されている。

 が、そのどれもが俺に使いにくさを感じさせた。

 というのも、前世であった辞書のようにシステマチックかつ正確なものではなく、本当に単語が詰め込まれていて、その解説文がついているだけのものだったからだ。

 辞書に載っている単語の並びには規則性がなく、しかもそれぞれの辞書で単語に対する説明の言葉にも違いがあり、ひどいものになると、文字の綴りすら違っていた。

 写本を繰り返すことで劣化コピー品となってしまっているのだろう。

 そして、いざほかの本を読むときに確認したい単語があっても、それがどこに書かれているかを探すのに時間がかかってしまうほどだったわけだ。


 というわけで、前世であった検索しやすい辞書を作ろうと考えたわけだ。

 そのついでに、正確な文字の綴りの確認や、ブレの大きい解説文の精査なども行い、もともとあったどの辞書よりも良い辞書を自らの手で生み出すことにした。

 もちろん、その作業だけに取り掛かっていたわけではない。

 むしろこの辞書編集作業は余った時間の片手間でしかできなかった。

 あくまでも、この学校では既存の本を写本することで運営資金を得ていることもあり、売れる保証もない俺の自作辞書の作成を先生が出してくれただけでもありがたいくらいなのだ。


 そんなわけで、時間がかかったが、ようやくそのオリジナル辞書が完成した。

 最後の一文を書き終え、最後の糸を通し、表紙を閉じた。

 ――完成だ。

 こうして、著者ライゼルの辞書が、この世界に誕生したのだった。

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