条件
「我、この命を糧とし、力を得ん。いただきまーす」
両手を合わせて祝詞を唱え、そしてついでに「いただきます」の声まで出してから、俺の夕食が始まった。
目の前には木の器にスープがあり、朝に焼かれた硬いパン、そしてテーブルの上に大皿がありそこに盛られた主食がある。
カチカチのパンをスープに浸して少し柔らかくし、それを口に放り込む。
それと同時に手を伸ばし、大皿の料理を掴みにいく。
「おい、ライゼル。お前いつも食いすぎなんだよ。それは俺のだ」
と、そこでそんな声が掛かった。
次男の兄の言葉だ。
次兄が声を荒げた隙に三男の兄は大皿から食事を掴もうと手を伸ばしている。
そうはさせまい、と俺も兄を無視して自分が食べる量を確保しようと身を乗り出した。
兄の手が皿に伸びる。
その瞬間、俺も身を乗り出していた。
「それは俺のだ!」
「早い者勝ちだよ!」
「いい加減にしなさい、あなたたち。ほら、私が分けてあげるから、喧嘩しないの」
そんな醜い兄弟争いを見かねて、姉が仲裁に乗り出す。
が、その言葉に騙されてはいけない。
なぜなら、大皿を丸ごと抱えるようにして、その上の料理をそれぞれに分けるように見せかけ、実際は姉も自分が多めに食べようとしていることなど我が家では皆知っているのだから。
ギャアギャアと、食卓はまるで戦場だった。
我が家の食卓というのは毎回こんな感じだ。
――原因は、たぶん俺だ。
乳幼児を脱して家族と一緒の食べ物を食べられるようにまでなった俺の食いっぷりがなかなかのもので、最初は微笑ましく見ていた兄弟たちだが、そう時間がかからないうちに末弟に食事すべてを奪われたらたまらないとばかりに争奪戦に発展することになってしまっているのだから。
が、だからといって、遠慮するわけにはいかない。
だって、我が家には昼ご飯という習慣がなく、朝から家庭内労働をこなしてきた俺も腹と背中がくっつきそうなくらい空腹なのだから。
兄弟げんかになろうとも、空腹を満たすために動かないといけないのだ。
「ライゼル、もっと食べ物がほしいか?」
そんな争いがある程度落ち着いてきたころ。
酒を入れた杯を傾け、口に含みながら俺の父がそう言った。
もっと食べたいか、そんな愚問を投げかけてくる。
「もちろん。もっとお腹いっぱい食べたいよ」
「そうか。なら、材木ギルドに話をつけてやろうか? お前はまだ子どもだから本当ならばギルドには入れん。が、俺からの口添えがあれば簡単な仕事なら請け負わせてくれるかもしれん。薪や柴をギルドに納品すれば、わずかだが報酬も出るだろう」
「え? いいの。うん、俺、ギルドに入って自分でも稼ぐよ」
「ちょっと、あなた。なに言っているのよ。ギルドに薪や柴を納品するってことは、この子が森に入るってことじゃない。さすがにそれは危ないわよ。ライゼルはまだ子どもなのよ?」
父からの予想もしていなかった一言。
だが、それを聞いて喜ぶ俺とは対照的に、すぐさま反対の声が上がった。
母からの一言だ。
まあ、それも当然だろう。
我が家の薪を勝手に売り払うわけにはいかないだろうし、そうなると俺は自前で売れるものを用意しなければならない。
が、材木ギルドに売れるものは当たり前だが木が生えている森にある。
子どもが日常的に行くには危険な場所だろう。
「そうだな。だから、条件を付けよう。学校に行け、ライゼル。そこで、一番の成績を取ることができたら、ギルドに話を持って行ってやろう。どうだ?」
「学校? うん、行くいく。俺学校に行くよ」
予想外の展開。
この村に学校なんかあるのか?
俺ほどではなくとも、もう少し成長した子どもたちも家の手伝いという名の仕事をさせられるこんな村に、学校と呼べるものがあるとは思ってもみなかった。
兄や姉たちは学校に行っていたんだろうか?
ま、なんにしてもありがたい。
学校があるなら、本もあるはずだ。
この家にはまともな本は存在しない。
多分、村全体でも本を持っている家は限られているんじゃないだろうか。
そのせいで、俺はいまだに知識が足りていない。
学校に行くことができれば、それも解消できるだろう。
一番の成績ってことは、テストでもあるのかな?
お腹いっぱいに食事ができるようにするためにも、まずはその条件をクリアできるように頑張ってみようではないかと、俺は明日からでも学校に行くと宣言した。
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