陰と陽
人型ゾンビに襲い掛かる。
ノクジルアックスを両手で握り、ゾンビへ一直線に駆けた。
その途上で外気功・属性強化を発動する。
いつものように、ノクジルアックスの隕鉄製の斧部分は白色闘気で強化し、トレント木材を使用した持ち手は青色闘気で強化している。
もともとの金属と木属性を強化することで、ノクジルアックスの威力と耐久力を高めるためだ。
だが、そこに別の気を少し追加した。
ゾンビを見たときに奴の体には陰の気が多かったことから、それに対しての弱点を突くための闘気を混ぜることにしたのだ。
例えば木属性であるトレントに対して攻撃力を高めるために金属である白色闘気が有効なように気の色にはそれぞれ弱点属性になるものが存在している。
では、陰の気に対して特効となるのはどんな気なのか。
陽の気だ。
俺の体にはいくつもの経絡が存在し、それぞれに気が流れている。
その経絡にもともと気の色というのがあり、基本的にはそれが青赤黄白黒の五色であると考えていた。
けれど、実際にはその五色に含まれない闘気というものがあった。
体の正中線の前面を流れている暗い色の闘気である陰気と、それとは逆に後面にある陽気がそうだ。
陰の気が日陰、あるいは闇のような暗さだとすれば、陽の気というのは日向のような明るい気といえるかもしれない。
ぶっちゃけ、何色というのが言いにくいのだが、なぜだか明るさを感じる色合いをしているのが背中側の正中線の経絡に流れていたのだ。
この陽の気をノクジルアックスに流し込んだ。
あくまでも基本的な属性である白色闘気で金属でもある隕鉄製の斧の威力と耐久力を向上させる。
そのうえで、斧の刃の部分に重点的に陽の気を混ぜこんだ。
近づいていった俺に気が付いたゾンビは、攻撃を受けようと防御する。
だが、痛みを感じることのない体だからか、腐臭のする両腕を持ち上げてノクジルアックスの振り下ろしを防ごうとしてきた。
本当にもともと人間だったのか?
探索者ならば防御にはその手に持つ剣を使いそうなものだが、両腕を犠牲にして俺の攻撃を防ごうとしている。
そのうえで、口を大きく開けてよだれを垂れ流しながら歯を見せてきた。
ゾンビになったせいか、剣ではなく、牙代わりの歯で噛みつこうとしているのかもしれない。
だが、そんな愚かなゾンビの目論見は儚くも崩れ去った。
俺の振り下ろしたノクジルアックスが防御に用いられたゾンビの両腕をスパンと切り落としながら、その下にあった頭をかち割り、首をへし折り、胴体を深々と割いた。
グッロ。
状態のいい死体をぐしゃりと叩き潰したような感触だった。
非常に気持ち悪い。
こいつがすでに人間ではなくゾンビであると認識していたからか、罪悪感のようなものは一切感じることなく、ただただ生理的な気持ち悪さしか感じなかった。
それは、このゾンビがまだ完全には動きを止めていなかったことも関係していたのかもしれない。
俺のノクジルアックスによる一撃は完璧に決まったはず。
だが、その攻撃を受けたゾンビの目はまだ死んでいなかった。
いや、すでにゾンビは死んでいるし、目は濁って淀んでいるんだけど、それでもまだ俺を攻撃してやろうという意志を感じたのだ。
頭をかち割っているのに、口が動いた。
ニチャリと笑うようにして口が開き、歯を上下に持ち上げる。
こいつは致命的な一撃をもらったにもかかわらず、まだ俺に噛みついてこようとしているのだろう。
やはり、アンデッドというのは油断ならない。
しかし、そんなことは以前ブレナンパーティーがアンデッドと戦ったところを見ていて知っていた。
汚らしい笑みを浮かべたゾンビの口による噛みつき攻撃が俺の喉元に届く、その前に俺のノクジルアックスが先ほどとは別の軌道を描いて振り払われた。
その一撃で、ゾンビの首は左右から断ち切られた。
すでに血も出ないようだ。
内部が腐り始めた肉と硬い骨をノクジルアックスで切断したことで、そのゾンビはさすがに倒すことができたようで、ドサリと地面へと倒れたのだった。
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