ゾンビの所持品
「お見事、少年」
「ハー、ハー……。グロすぎだわ、これは。悪いけど水を出してもらえるかな、レイラ? ノクジルアックスを洗いたい」
「いいけど、先に魔石をとる? ナイフも一緒に洗ったほうがいいと思う」
「あー、なるほど。ってか、こいつもゾンビだから魔石があるのか。人間なのに」
人型ゾンビとの戦闘はごく短時間で終わった。
結果だけを見れば、俺の圧勝だった。
だが、戦闘中には感じなかった精神的な疲労が、一息ついた瞬間に出てきてしまった。
魔物として倒したと分かっていても、気持ち悪いものはどうしようもなく、すぐにその形跡を洗い流してしまいたかった。
だが、レイラに言われて気が付く。
こいつは人間だったがアンデッドになってしまっているので魔石があるのだ。
多分、心臓の近くだろうと当たりを付けて、胸にナイフを差し込み切り開く。
血は出ない。
だが、背中側に蛆が湧いていたせいか、胸の奥からも白い体の蛆が出てきて悪臭も漂う。
誰だよ、祝詞がアンデッドにも効果的だから積極的に狩ってみようって言ったのは。
汚い、臭い、きついの三拍子じゃねえか。
「汝、この遺骸を糧にし、力を得ん」
そんな気持ち悪さを乗り越えて魔石を回収し、祝詞を唱える。
すると、ゾンビの肉体がぼろぼろになった。
生きていた魔物なら、しなびるように縮んでいったが、ゾンビの場合は乾燥して土にかえるみたいになるようで、軽く触れただけで、もろもろと崩れ落ちるほど脆くなった。
「アンデッドの状態ってのは肉体だけっぽいね。革の鎧とか、剣とかの装備品は残るのか。鎧はもう使い物にならないだろうけど、この剣はまだ研ぎなおせば使えそうかな? ってか、この剣はエバンスのか?」
「知り合い?」
「鍛冶屋でこの剣を砥いだことがある。持ち主は探索者のエバンスって名前だったと思う。そういやこんな顔だったな。そうか、死んじゃったのか」
村の人間ではないが、ノクジル爺さんがやっている鍛冶屋には探索者が武器の整備などに足を運んでいたので知っていた。
今まで思い出せなかったが、確かそんな名前だったはずだ。
本当かどうかは知らないけれど、自分たちは優秀な探索者だと大声でノクジル爺さんと話していたのが記憶に浮上してきた。
トレントの木材回収狙いで森の奥まで入り、アンデッドになってしまったんだろうか。
「あ、タグも残っているね。一応持って帰っておこうか」
そんな元エバンスの体はもうなくなってしまったけれど、鎧の首元辺りに紐で通されたタグが残っていた。
決まりというわけではないらしいが、魔境に入る探索者はこういうタグをつけている者もいて、死体などを発見したらそれを発見者が持ち帰ることもあるそうだ。
ケイオス村には探索者たちのためのギルドなんてものがないので、しなければならないということはないけれど、せっかく残っていたので持って帰っておこう。
回収したタグとエバンスの剣、そして解体に使ったナイフとノクジルアックスをレイラに出してもらった水で洗い清めた。
「さて、これからどうしようか? 人型っていう驚きがあったけど、アンデッドから手に入れた魔石が祝詞を使って強化できることはこれで確認できた。せっかくだし、もう少しアンデッドを倒していこうかな」
「うん。次は私も戦う」
「ありがとう、レイラ。それで質問なんだけど、レイラって魔術師でしょ? 魔石を使って魔術刻印を強化できると思うけど、その時に魔力の回復ってできるの」
「魔石を使えば魔力は回復する。間違いない」
「そっか。じゃあ、悪いけどアンデッドと戦うときはレイラもどんどん魔術使ってくれないかな? その代わり、アンデッドから取れた魔石はレイラが使ってくれていいからさ」
人型であっても、魔物と化した相手と戦うことはできる。
できるのだけれど、それはそれとしてやはり精神的な負担はあると認めざるを得ない。
一番堪えるのは、腐敗したゾンビの肉体から発せられる悪臭だ。
祝詞を唱えて肥料の土みたいになった後なら気にならないが、それまでは鼻が曲がりそうな臭いがプンプンしていて、正直今日の晩御飯は喉を通らないんじゃないかと思うくらいだ。
なので、レイラの魔術で遠距離から仕留めてもらえるならば助かる。
魔石を使えば魔力も多少回復するみたいなので、そんなことをレイラにお願いして、俺たちは魔境の探索をさらに続けることにしたのだった。
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