ゾンビの気
「……人型のゾンビだ。装備からみてあれは探索者かな? 動いている死体が割と新鮮そうだから最近ゾンビ化したのかも」
トレントエリアを抜け、さらに奥へ進むとアンデッドと遭遇した。
ここからは魔王種の支配領域に近いからか、ゾンビなどがいる頻度が高いことはブレナンパーティーの探索時に判明している。
俺とレイラだけでの探索だが、魔石強化の祝詞が普通は利益の少ないアンデッドに対して利用価値を高めてくれるのではないかということで、一度戦ってみようと、こちらから探していた。
そして見つけた。
まだ状態のいい人間の死体がゾンビ化したものだ。
おそらくはこの森に入った探索者だったのだろう。
革の鎧を身に纏い、剣を手にしている。
そう、ゾンビが剣を持っているのだ。
ゾンビ犬などもそのスピードが驚異的ではあったが、装備品を持つモンスターというのは危険度が高い。
「どうする? 戦ってみる?」
「少年が決めて。私は少年の決定に従う。だけど、退くべきと思った時には言う」
「そうか。わかった、それじゃあ戦ってみよう」
ゾンビの様子を物陰からうかがいながらレイラへと相談すると、いつものように俺に任せると言ってきた。
だが、レイラなりに状況の判断はしているようで、引き際はレイラも見極めているようだ。
つまり、今はまだ退くべき状況ではないということだ。
確かにそうかもしれない。
元探索者の剣を持ったゾンビは危険だけれど、あいつは今単体でいる。
この森にやってきたのが俺のようにソロだったとは考えにくいから、ほかに仲間がいてもおかしくはないだろうが、いないということは彼一人がなんらかの理由によりこの森で命を落としてゾンビ化してしまったのだろう。
仲間がいないのであれば、剣を持つという特異性はあるものの、ほかの危険な魔物と比べて特別にリスクが高いわけではない。
動物型の魔物だって十分に危険だし、魔法も使ってくるんだしな。
ここは戦いに挑むべきだろう。
問題があるとすれば、俺か。
レイラはきっと一人でもあいつを倒してしまう実力がある。
俺もノクジルアックスをぶち込めばゾンビを機能停止させられるだけの力はあると思っている。
だが、その攻撃をいつもどおりに行えるかが問題だ。
あのゾンビは状態が良すぎるのだ。
以前見かけたゾンビ犬のように全身の皮膚が爛れて、いかにもゾンビですという状態であれば何も思わなかっただろう。
だが、あれだとまだ生きている人間に見えなくもない。
さっきちらりと見えた背中側に大きな傷があり、そこに蛆が湧いてグジュグジュになっているのに元気に動いているのがゾンビらしさを出しているが、正面から向き合えば本当に生きている探索者に見えてしまうのだ。
人間を攻撃できるのか。
多分、できると思う。
安全な村の中で自分の知り合いを攻撃するわけではないんだ。
魔物が跋扈する森の奥で剣を持った奴に襲われれば、それが生きていてもきっと反撃できると思う。
が、やったことが無い。
まだ、人間っぽい相手に自分から攻撃を仕掛けたことがないことに一抹の不安を抱えてしまう。
もしも直前になってためらったらどうなる。
俺だけの問題だけじゃなく、レイラにも危険を押し付けてしまうかもしれない。
「大丈夫。少年ならできる。しっかりと相手を見て」
俺があれこれ考え込み、動けずにいると後ろからレイラが声をかけてきた。
なんの根拠もない大丈夫という発言は普通に考えると無責任にも思えるけれど、不思議と安心感がある。
優秀な魔術師であり探索者でもあるというだけではなく、彼女が俺のこれまでの探索を見て、大丈夫なのだと芯から思っているというのが伝わってきたからだ。
しっかりと相手をみろ、か。
確かにそうだ。
あれは、人型を保っているけれど確かにゾンビになっているんだ。
すでに人ではなく魔物の一種だ。
情けをかける相手じゃない。
「……それに暗い、な。アンデッドってもしかして陰属性でもあるのか?」
そして、人型ゾンビをよく見ようといつものように闘気を目に集めて観察した。
そこで気が付いた。
奴の持つ気の色が暗いのだ。
黒ではない。
今まで何度も見てきた黒色の気は、水が持つ色だ。
表現が難しいが、黒いのではなく光が当たらなく陰になっているような、陰の気をアンデッドは纏っているのだ。
陰の気を持つ魔物っていたんだな。
今まで森の中を動き回っていて気の色を観察していたけれど、青赤黄白黒の五色で判別できていた。
が、実は俺はこの五つの色だけではなく、陰の気というものも知っている。
それは、俺の体にある経絡のうちの、体の前側の正中線を流れている気の色が暗く見えていたからだ。
黒と似ているけれど違う感じがしていたが、まさかこの影のような色の気をアンデッドも持っているとは思わなかった。
ま、なんにせよ、相手の気の色を見つめたことで奴を普通の人間だとは思わなくなった。
あれは陰の気を纏いしゾンビであり、俺の敵だ。
そのゾンビを倒すべく、俺はノクジルアックスを手にして襲い掛かったのだった。
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