魔石強化
注連縄を越えて魔境に突入する。
いつもなら内気功・迷彩をフルに発動し、魔物に見つからないよう森へ溶け込む。
だが、今回は違う。
いつもよりも多くの気を目に集め、木に登って高い位置から周囲を見渡し、自分から積極的に魔物を探した。
そして、見つけた。
遠くにいた突撃猪という魔物を発見する。
「あっちだ。行こう」
スルスルと木から降り、レイラに合図を出して森を進む。
なるべく音を立てず、それでいて後ろを歩くレイラが進みやすいよう藪を払い、簡単な道を作りながら、発見した突撃猪のもとへと向かう。
小さな水場があり、そこで水を飲むために地面へとフゴフゴ言いながら鼻を近づけている巨大な猪がそこにいた。
指でハンドサインの合図を出して、レイラは待機してもらい、俺が無手の状態で動く。
こちらの位置は風下だ。
鼻のいい突撃猪だが、水場に集中している今なら、ある程度近づけるはずだ。
においと視線に気を付けながら接近し、ある程度近づいたところで腰につけたウエストポーチ――マジックバッグへ手を入れる。
素手で近づいていた俺の手には、次の瞬間――巨大な斧であるノクジルアックスが握られていた。
「ブルッ!!」
その時、突撃猪が俺の存在に気が付いた。
そして、魔物らしくすぐに戦闘態勢に入る。
突撃猪はその大きな体に力を入れて、俺に向かって走り出そうと前足をかがめる。
しかしそこに、邪魔が入った。
「ブルル!?」
力強く第一歩を踏み出そうとしたその足元に小さいが硬い石の弾が飛んできたのだ。
トレントの幹すらえぐる大きなストーンバレットではなく、牽制用の小さなストーンバレットがレイラの杖から放たれ、着弾した。
それは突撃猪にとって大きなダメージにはならなかったが、しかし確実に出ばなをくじくことに成功した。
ドッ!!
そして、無防備な突撃猪の体へとノクジルアックスがめり込む。
白色の闘気で属性強化した隕鉄製の斧が、突撃猪の右肩へと食い込んでいる。
本当ならば頭や鼻などに衝撃を与えて脳震盪でも起こしたほうがいいのかもしれないが、まだまだこのノクジルアックスは硬さが足りない。
頭蓋骨などで守られた頭部にぶち当てるよりは、足の付け根でもある肩の筋肉を切断するように攻撃したほうが良いと判断しての一振りだった。
「ッガフ、ガフ!!」
悲鳴を上げて、大きく顔をあげた突撃猪。
その突撃猪の喉元へとレイラのストーンバレットが再び命中する。
気管を押し潰すかのように、完璧なタイミングと位置で当たったストーンバレットは大きな猪の呼吸を大きく乱した。
心の中でよし、とつぶやきながら、ノクジルアックスをもう一度横に振る。
胸を一文字に切るように突撃猪に斧を振ることで、その一撃が決定打となった。
巨大な体躯の猪が地面に横たわる。
それを見て、油断なく斧を振り、次は首を落とした。
悪くない戦いぶりだ。
魔物相手に最初は隠れて近づいたとはいえ正面から戦って勝つことができた。
これも、援護してくれる優秀な魔術師がいるからだろう。
感謝してもしきれない。
後方から近づいてきたレイラに向かってお礼を言い、そしてすぐに解体作業へと移る。
今回の目的は魔物から得た魔石を、その遺骸を使って強化できるかどうかというものだ。
慣れた手さばきで解体し、その胴体から魔石を取り出す。
そして、考えていた祝詞を唱えた。
「汝、この遺骸を糧にし、力を得ん」
突撃猪からとった魔石を残りの体に押し当てるようにして祝詞を唱えた瞬間、劇的な変化が現れた。
先ほどまでは生きて俺を攻撃しようとしていた突撃猪の遺骸。
死してなお生命力を感じられるほどの存在感のあったそれが、干からびたのだ。
巨大な体躯がしなしなになり、その毛皮はしわくちゃのボロボロとなり、肉は食べたら筋しか残っていなさそうな見た目になる。
それに対して、俺が手にしていた魔石は先ほどよりも少し大きくなり、わずかに重くなったようにも感じた。
「成功、かな?」
「成功じゃない?」
うまくいった、んだと思う。
ぶっちゃけ魔石がこれで本当に強化されたのかは俺たちにはわからない。
だが、これまでなかった変化だ。
少なくとも一晩中、トレントの枝を手にして祝詞を唱えてもこんなふうにはならなかった。
ならば、突撃猪の体から魔石にはなんらかのエネルギーが移ったのではないだろうか。
こうして、俺は魔石強化のための祝詞を開発することに成功したのだった。
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