思わぬ勝利
「トレント発見。オリーブタイプだから奇襲をかけたら離脱する。フォローよろしく」
レイラのおかげで魔境の森のなかをズンズンと進んでいき、トレントがいるエリアに入った。
そこでまず見つけたのは、オリーブの木に擬態したトレントらしき一本だった。
気の色を見る限り、間違いないだろう。
細かな枝が横へ大きく広がっているため、反撃されると厄介そうだ。
なので、離れた位置で内気功・迷彩を相手からの光学迷彩となるように調整しつつ、小声でレイラへと声をかけた。
レイラのほうも事前に行っていた説明のとおり、俺の行動の意味を理解し、無言でこくんと頷いてから、木々に隠れるように身をかがめて待機する。
それを確認し、俺は一応少し遠回りし、トレントの右側から奇襲を仕掛けた。
周囲の気の色へ完全に溶け込む。
さらに、トレントから見れば背景と同化して見えるよう、細かく気の色を調整しながら近づいていく。
これまでにもトレントを何度も伐ってきているが、さすがにこの時だけはいまだに緊張する。
相手が俺の存在に気が付いて攻撃してきた場合、すぐに離脱できるようにも気を付けながらジリジリと近づいていった。
もう少し内気功・迷彩の精度を高めて、移動速度が速くなるように頑張らないといけないな。
今までは一人だったから、どれだけ時間がかかっても気づかれないことを優先して慎重に動いていた。
が、今は遠くでレイラが見守っている。
あまりにも俺がジリジリと近づくようでは心配されるかもしれない。
そのことを思うと、少しでも早く近づこうかと思ってしまう。
だが、ここで焦ってはいけない。
もしここで失敗すれば、さらに余計な心配をかけてしまうことになるのだから。
時間をかけつつも、トレントに近づくことに成功した。
すでに俺の身はトレントの枝の下をくぐるようにして、その幹に近づいている。
緊張感が最大に高まる。
心臓が激しく鼓動するなか、射程に入った瞬間、俺は自身の闘気を内気功だけではなく、外気功・外纏と属性強化に振り分けて攻撃する。
ドッッ!!
ノクジルアックスが大きな音を立て、トレントの幹へと突き刺さる。
次の瞬間、その幹に変化が現れた。
トレントの特徴である幹に目と口の模様が浮かび上がったのだ。
次の瞬間、頭上の枝が蠢き、俺を捕らえようと襲い掛かってくる。
だが、ここで、これまでにない変化が現れた。
幹に切れ込みを入れた俺をとらえようとしたトレントの動きがびくりと止まったのだ。
なんだ?
なにが起きた?
ノクジルアックスを構えたまま、大きく後方へ跳び退く。
逃走姿勢に入った俺の視界で、トレントの体の向きが変わる。
その浮かび上がった模様の表情の向きが根っこごと移動してクルリと変わり、別の地点をにらみつけていたのだ。
「……レイラ?」
そこにいるのはレイラだ。
俺が先ほどレイラと別れ、大きく移動しながらトレントに攻撃を行ったが、トレントがみている方向は間違いなくその別れた地点であり、レイラが身を潜めているであろう場所だった。
なにをしているんだ?
レイラがトレントに攻撃されそうになった俺を助けようとトレントに対して攻撃しようとしたわけではないと思う。
もしそうであれば、すでにレイラは魔術を放っているはずだからだ。
だが、トレントがレイラのほうを向いたのにもかかわらず、レイラのいる場所からはいまだに攻撃するそぶりすら見られなかった。
「……そうか。そういうことか。ようするに、お前から見ると俺はレイラよりもはるかに格下ってことだな。眼中にないってわけだ」
トレントの不可思議な行動。
一瞬、なにが起こったのか分からなかった。
だが、トレントの特性を思い出し、独り言のようにつぶやく。
普通は、トレントは周囲に人間と魔物がいれば、魔物に対して攻撃を行う。
それはトレントが人間よりも魔物のほうが強敵であると認識し、まずは自身により深刻なダメージを与える可能性の高い相手に対処しようとする傾向がある、というものだ。
そして、これは人間同士でも当てはまるのかもしれない。
つまり、俺がトレントに攻撃したことで、トレントは周囲に人間がいることに気が付いた。
いつもなら、俺にそのまま攻撃しているところだ。
だが、トレントは気が付いたのだろう。
この場には人間が二人いる、と。
そして、その二人のうち、より警戒しなければならない相手がレイラであると判断したのだ。
目の前の俺ではなく、遠くに潜むレイラのほうを強敵と判断したのだ。
なめやがって。
お前の幹に大きな切れ込みを入れたのが誰なのか、一瞬前のことすら忘れたのかと言いたい。
「隙あり」
そのトレントの動きはどう見ても大きな隙だった。
目の前にいる俺から遠くにいるレイラへと向きを変えるという行為。
トレントは木の全周囲に枝が広がっているので、ぶっちゃけ全方位をカバーできるのだと思う。
しかし、それでも意識をほかに向けるというのは悪手だろう。
事前の作戦とは違うが、俺はここで攻勢に出ることにした。
俺から意識をそらしたトレントに向かって、再び大きく跳躍するようにして前進し、そして体をグッとひねるようにしてノクジルアックスを振るう。
受け口としてはまだ未完成の最初の一撃とは反対側に位置する幹に追撃の一撃をお見舞いした。
鈍い衝撃音が響き、トレントの幹に追い口を作り上げる。
だが、それではまだ足りない。
今までのようにトレントの自重で幹を伐るには切れ込みの深さが足りず、トレントはまだ動くことができた。
さすがにもう一度攻撃を受けたからか、トレントの意識が再び俺に向く。
すぐに枝が動き出し、俺をとらえようと動いた時だ。
ドドン、と大きな音がして、トレントの幹がミシミシと音をたてた。
レイラだ。
レイラの巨大な岩の砲弾であるストーンバレットがトレントの幹へと直撃したのだ。
もともと、レイラの魔術による攻撃は威力が高く、一撃でトレントの幹をえぐる力がある。
それが、俺の作った切れ込みにも影響を与え、トレントが倒壊する。
こうして、俺一人では勝てないと判断していたトレントを事前の想定とは全く違うレイラとの挟撃により倒すことに成功したのだった。
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