魔術の使い方
ケイオス村にやってきたレイラは、そのまま俺の家に泊まることになり、家族みんなが大歓迎で迎え入れた。
きっと兄や姉がこの村を出ていったことも関係しているんだろう。
騒がしい次男や長女が村を出ていき、家にできた空きと寂しさを埋めるように、急にやってきたレイラのことを家族みんなが受け入れたのだ。
そんなこんなで一晩が過ぎ、翌日の朝がやってくる。
「やっぱりレイラも一緒に森に入るの?」
「もちろん。私は少年を守る」
「そっか。それじゃあ、よろしくね、レイラ」
昨日言っていたとおり、レイラは俺とともに魔境の森についてくるという。
まあ、大丈夫だろう。
彼女はそのへんの町娘ではなく、立派な探索者にして優秀な魔術師だ。
彼女の経歴を考えれば、むしろ俺という子どものほうが大丈夫かと心配されるくらいだろう。
ただ、魔境の奥に入った時にはちょっと注意してもらおう。
特にトレントを狙うときには、俺が内気功・迷彩を使って奇襲を仕掛けるつもりなのは今後とも変わらない。
なので、トレントの感知能力の範囲内にはなるべく入らないようにしてもらう必要がある。
もっとも、トレントの感知範囲がどの程度なのかは迷彩を使ってから見つかったことが無いので知らないのだけれど。
そのへんも、おいおい調査していく必要があるかもしれない。
何はともあれ、俺はレイラと組んで森に入る。
昨日のうちにレイラには地図を渡しておいた。
彼女と離れてから俺が作った魔境の地図だ。
魔術師としていくら優秀であっても、以前のように索敵担当のバードがいない状況では気を抜けない。
万が一、俺と離れ離れになったときに村に帰ることができるように、あるいは待ち合わせ場所としての水場の位置を共有できるように注連縄を越える前に最低限のルートは頭の中にも叩き込んでもらう。
レイラは物覚えもいいようで、俺が渡した地図を見て、すぐに理解し、どこに何があるのか暗唱してみせたくらいだ。
「改めて、もう一度方針を確認しておくよ。俺の狙いはトレントの討伐だ。倒せそうなトレントは奇襲して倒しきるからレイラは離れてみておいてほしい。逆に俺一人では厳しいと判断したトレントは、俺が合図を出すからレイラが魔術で遠くから攻撃して傷を残しておいてほしい。ほかの探索者の目印にもなるからね」
「わかった。リーダーは少年だから、言うとおりにする」
「ありがと。で、ここからはちょっと聞きたいことがあるんだけど、レイラみたいな魔術師はやっぱり基本的には魔術を使わずに温存しないと駄目なの?」
「うん。普通はそうする。どうして?」
「いや、これは聞いた話なんだけどさ。魔術って魔石で魔術刻印を鍛える以外にも、魔術は繰り返し使うことで成長するって話だから、できれば探索中もどんどん使ったほうがいいんじゃないかと思ってさ。もちろん、いざというときに魔術が使えないくらいに消耗するのはまずいんだろうけど」
魔術を使えない俺がこんなことを言っていいのかはわからない。
そのため、以前ブレナンパーティーに同行していたときには、こういうことは一切口には出さなかった。
だが、当時から思っていたことがある。
それは、あまりにも魔術師を温存しすぎではないだろうか、ということだ。
高威力を出すことができる魔術師は、いざというときのための切り札である。
そのため、探索者パーティーの中にあって魔術師はなるべく消耗をさけるべきであり、ブレナンたちもレイラに魔術を放つように言うのはトレントなどの強敵と戦うときだった。
俺にいいところを見せようと無意味に魔術を放ったときには、ブレナンがパーティーリーダーとして説教もしていたくらいだ。
だが、魔術師としての成長という面からみてその行動ははたして正しいのだろうかと思ってしまう。
下手をしたら魔術を使うことなく探索を終える日もあるくらいなのだ。
そんなことだといつまでたっても魔術の実力が成長しないんじゃないだろうか。
魔石で魔術刻印の成長を促せたとしても、パーティーで稼いだ魔石を魔術師が独占できるわけでもない。
金のある貴族のように魔石を買い集めて培養促成するでもしなければ、レイラの実力が伸びないんじゃないだろうかと思う。
「だから、さ。俺と探索するときはなるべく魔術を使ってみるっていうのはどうかな? といっても、前のストーンバレットみたいな高威力型の魔術じゃなくて、もうちょっと消耗の少ない威力が低い魔術を使う、みたいな。イメージ的にはバードの射撃みたいに近接武器では届かない位置にいる相手の牽制って感じで」
「わかった。少年がそう言うならやってみる」
いいのかな?
いざというときに魔力切れでレイラが魔術を使えなくなったら非常にまずい。
が、今のところ、俺一人で魔境の森に入り、探索を終えられている。
とりあえず、今日は初めてのタッグを組んでの探索だし、安全マージンをしっかり確保したうえで試してみるって感じがいいだろうか。
ときおり遭遇した魔物には俺がハンドサインを出して相手の位置を知らせてレイラが牽制を行い、俺が近づき斧で叩き切るようにして対処する。
そんなふうに役割を決め、魔境の奥へと分け入っていったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけけますと執筆の励みになります。




