レイラとの関係
「久しぶりだね、レイラ。元気そうでよかった。でも、なんでこの村にいるの?」
ノクジル爺さんの鍛冶屋で俺を待っていたというレイラ。
彼女と別れてから、もう数か月が経っていた。
元気そうなレイラの姿を見てホッとした。
だが――なぜ彼女がこの村にいるのかは分からない。
ブレナンパーティーになにかあったんだろうか?
「少年に会いに来た。まだこの村にいて、探索を続けていると聞いたから」
「おかげさまで今のところは怪我無くやれてるよ。てか、心配して来てくれたんだ? ありがとう」
「ほんとはすぐに戻ってくるはずだった。けど、この杖ができるのに時間がかかった。それに、私がパーティーを抜けることにブレナンたちが反対して揉めたから、時間がかかった」
……んん?
ブレナンのパーティーから抜けた?
誰が?
レイラが?
そりゃ、揉めるだろうな。
ブレナンパーティーでは魔術を使える者が何人もいるのはいたけれど、高い攻撃力を持っていたのはレイラだけだ。
あのパーティーでトレントに大打撃を与えることができたのも、レイラの魔術だった。
それに、アンデッドにして魔王種のリッチに対しても、もし戦うとなれば攻撃が通じるのはレイラくらいじゃないかという話だったはずだ。
そんな優秀な魔術師がほかにいるだろうか。
多分、いないはずだ。
少なくとも、危険な魔境に一緒に探索に来るメンバーとして引き入れようとしても、そう簡単には見つからないんじゃないだろうか。
「抜けてきたって大丈夫なの?」
「問題ない。それより、この杖を見て。あの時のトレントから削り出して作った杖に高品質の宝石を組み合わせて作った最高の杖。すごい杖」
「あ、ほんとだね。これは、琥珀が埋め込まれているのかな? かっこいいよ、レイラ」
「ふふん」
うーむ。
まあ、本人が大丈夫だっつってんだから、大丈夫なんだろう。
というか、俺が心配する必要もないか。
それにしても、杖か。
魔物であるトレント、それも多分太い幹から削り出して作った太い杖だった。
指揮棒みたいな細長いワンドタイプじゃなくて、殴りつけてもダメージがあるんじゃないかって感じの大きさのスタッフタイプで、小柄な女性魔術師のレイラは両手で持ってもちょうどいいくらいだ。
その杖の先にうまく大振りの琥珀をはめ込んでいる。
魔術のことはよく分からないが、見事な杖だと思った。
素人仕事ではない熟練の職人が作ったに違いない。
俺だけではない。
鍛冶師ノクジルまで、思わずうなってしまうほどの出来栄えだった。
「その杖を見せに来たってことか。じゃあ、今日はゆっくりしていきなよ。泊るところはあるの?」
「違う。少年が森に探索に行っていると聞いた。だから、私も少年と一緒に探索する」
「え? なんで?」
「私は少年に恩がある。だから、少年のことを守る」
……この子はなにを言っているんだろうか?
俺がレイラに対して、何かしたということはないと思うんだけどな。
なにか、勘違いでもしているんじゃないのかと思ってしまう。
「一緒に森を探索してくれるってのはありがたいけど、別にレイラが俺に恩を感じる必要はないでしょ? むしろ、この間は俺がレイラに守られていたんだから」
「違う。私はここより離れた町の孤児院で生活していた。そこで、この本を読んだ。いろんな言葉をこの辞書で覚えた。著者ライゼルの本。まさかこの本を書いたのが自分よりも年下だったのは驚いたけど、私はこの本のおかげで言葉を覚えて、魔術も使えるようになった。だから、その恩を返す」
そう言って、レイラが杖を持つ手とは逆の手を差し出す。
そこには一冊の本があった。
見覚えのある本だ。
あれは、俺が作ったオリジナル辞書に間違いない。
学校での写本だけではなく、既存の本にはなかった俺が編集して書き上げた辞書の初版本だ。
確かに、あの時は著者として俺の名前を執筆者にして本に記していたし、筆跡も俺の物だから初版本で間違いないだろう。
レイラはどこかの貴族家の令嬢などではなく、孤児院出身だったようだ。
そして、そこで俺の本を手に入れる機会があり、そこからその本を使って勉強したことで、詳しい経緯は分からないが優秀な魔術師としてブレナンらの信頼を得るまでになったのだそうだ。
俺は自分の知らないうちに実はレイラと関係があったのを、この時ようやく知ることとなったのだった。
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