再会
「ライ坊や、今日もトレントを伐ってきたのか?」
「うん。持ち帰った丸太のほうは材木ギルドに預けたけど、トレントの枝はいるかな? 鍛冶の薪に使ったらやりやすかったってノクジルさんも言っていたでしょ?」
「うむ。悪いのう。じゃが、せっかくライ坊が持ち帰ってくれたのであれば遠慮なくいただこうかの」
魔境の森に入り、トレントを狩る。
最近の俺の魔境探索は、ほとんどそれが中心になっていた。
現状で俺が作ることができる魔境の地図は探索者にとっても十分で、その範囲内の素材や魔物の新たな情報については最近はガウェイン先生が探索者から直接買い取っているらしい。
ガウェイン先生自身は森へ入れないため、情報の真偽は確認できない。
そのぶん買い取り価格は安いが、それでもその日のお酒を飲む足しになる金額が手に入る。
そのため、売ってもよい情報や魔物の遭遇情報などが集まってきており、それらは再び探索者に売るための情報として活用される。
なので、そういったほかの探索者では踏み込めない範囲を、トレントがいる魔境の森奥を俺は活動のフィールドとしていたわけだ。
基本的には倒せそうなトレントを積極的に倒しているところだ。
杉の木タイプのトレントは内気功・迷彩を使って奇襲からの攻撃で仕留め、魔石と素材を持ち帰る。
逆にカエデの木のような横に広がるタイプのトレントは相手の攻撃をかいくぐって幹に攻撃するのが難しいのであまり倒していない。
が、その場合でも奇襲は仕掛けて、弱点に対して斧の一振りを叩き込んでいる。
割とこれが評判がいいようだ。
というのも、木の幹に深々と斧による切れ込みが入った木が魔境の森にあることになる。
これは、普通に考えて明らかにおかしい。
人が入るには危険すぎる場所に、同じような高さに斧で切り付けたような切れ込みがあるというのは、魔物の仕業としても考えにくいからだ。
というか、そのあたりにまでくると魔王種のこともあって、トレントがほかの魔物と戦うこともないために、幹に傷が付く理由もない。
つまり、トレントが出現する深度の森の奥で、幹に傷がある木を見れば一目でそれがトレントであると分かることになる。
このおかげで、探索者たちは危険を避けやすくなったらしい。
ほかの探索者がトレントに対して躊躇して入ってこない場所であっても、俺はそのエリアで見かけた希少な採取素材の情報を持ち帰ってガウェイン先生に渡している。
なので、実力がありつつもトレントのために足踏みをしていた探索者の中には、俺がトレントに傷をつけて帰ることで、トレントの生息域まで踏み込もうとする探索者が増えた。
もちろん、完全に安全が確保されたわけではない。
俺が見つけていないトレントもいるだろうし、なによりもトレントは移動できる。
不意に襲われるリスクは消えることはない。
が、それでも儲けが出るかもしれないとなると人間は欲張りさんになるようで、それなりの人数が今日も森の奥へと向かっているはずだ。
そのなかには、俺が回収しきれなかったトレント材を拾い集めて商人へ売る、したたかな連中もいるみたいだしな。
おかげで、ケイオス村の魔境は実力派探索者パーティーが強力な魔王種にさじを投げて撤退し、いつ滅ぶかわからない場所であるにもかかわらず、儲けが期待できる場所でもあると認識され始めたようだ。
そのためか、一度持ち直した探索者の数が、さらに増え始めているとガウェイン先生も言っていた。
ノクジル爺さんの鍛冶屋もまた仕事量が増えてきているみたいだ。
「それよりも、ライ坊に客が来ておるぞ。帰りをずっと待っておったんじゃ」
「客? 俺は今、鍛冶屋の仕事を受けてないけど……」
「そうじゃないぞ。ほれ、ライ坊の知っておる人じゃ」
「やほー。久しぶり、少年」
マジックバッグからトレントの枝をノクジル爺さんに渡していると、そのノクジル爺さんが俺に客が来ていると言ってきた。
誰だろうか。
研ぎの仕事も煎じ薬作りの仕事も今はせずに、魔境探索を行っていることは今この村にいる探索者なら知っている人が多いはずだけど。
そう思い、疑問顔を浮かべる俺に鍛冶場の奥の部屋から声が聞こえた。
そして、現れたのはこの古びた鍛冶屋には似つかわしくない、小柄で可愛らしい少女が立っていた。
俺よりも年齢は上だが、十代後半で今日はきれいな白いワンピースを着ているブレナンパーティーの魔術師レイラがそこにいたのだった。
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