相性
「トレントを倒せたのはいいけど、かなり大きな音がどうしても出るな。さっさと取れるものは回収して撤退するか」
初めて自分一人で挑んだトレント戦は、見事木こりの技術を使用した俺の勝利に終わった。
が、ここで勝利の余韻に浸ってゆっくりしているわけにはいかない。
杉の木の形をした大きなトレントが幹を伐られて地面へと倒れたのだ。
周囲の木々にぶつかり、ほかの枝をへし折りながら倒れたときの音は魔境の森の中に響き渡ることとなった。
この音は、決して歓迎できるものじゃない。
普通の動物なら、自分たちの住むフィールドでこんな大きな音がすれば警戒して近づいては来ない。
が、魔物だと逆だ。
人間を見れば襲い掛かってくる連中だ。
近くで大きな音がしたことに気が付けば、きっとその場に集まってくることだろう。
この場にとどまり続けるのは危険だ。
早く立ち去らなければならない。
が、せっかく倒したトレントだ。
戦利品がなにもなしで帰るわけにはいかない。
すぐに俺は倒れたトレントに近づき、まずは魔石を回収した。
俺が最初に作った受け口の切り込み部分を見ると、その奥に魔石が見えた。
どうやら、伐った際の衝撃で魔石が砕けるなんてことはなかったようで、無事に手に入れられたことに安堵する。
「汝、この魔石を糧に、力を得ん」
そして、その手に入れたばかりの魔石はフクロフクロウの腹袋を素材として作り上げたマジックバッグのために使う。
小型の魔物よりも魔石の質などは多分いいだろうし、容量も増えてくれることだろう。
そして、倒れた衝撃で割れやすくなった部分を見極め、斧を振り下ろす。
先ほどの戦闘で伐った部分とは違うところでトレントの幹を切り落とし丸太を作り出し、そのほか、枝も可能な限り落として、マジックバッグへと詰め込んでいく。
ガサガサガサ。
そんな回収作業をしていると遠くのほうで音が聞こえてきた。
まだ、トレント木材は残っているのだけれど、そろそろ切り上げ時か。
未練がないわけではないが、いい加減この場を離れよう。
そうして俺は、トレントから幹の木材と枝を手に入れて安全な地点まで逃げていったのだった。
「……ふう。ここまで来ればもう大丈夫かな? さて、と。さっきのトレント戦についての総括でもしておこうか」
周囲への警戒を怠らず、けれど近くには魔物の気配はないことで、ホッと一息ついて腰を下ろす。
まだここは魔境の中ではあるが、ひとまずは大丈夫そうだ。
口に水を含み、トレントとの闘いを思い出す。
先ほどの戦闘は、かなり上出来だったと思う。
が、反省すべき点もある。
やはりというか、俺の攻撃力では弱点を狙っても一撃で倒すことは難しいということがはっきりとわかった。
いくら肉を食って力が付いたと言えども、まだまだ攻撃力不足だということだ。
だが、すべてが悪かったわけではなく、良かった点もいくつもある。
まずは何と言っても手ごわい魔物として知られているトレントを見事に倒せたことだろう。
最大の勝因は、内気功・迷彩による完全な奇襲が成功したところにある。
あの方法は、おそらくだがトレント種に対しては非常に効果的だと思う。
次からも十分に気を付けてやる必要はあるが、トレントと戦う場合、俺が先手をとれる確率はかなり高い。
ではなにが問題か。
それは、俺がトレントの幹を伐ることができるかどうかにある。
先ほどはうまく相手の攻撃を回避しながら受け口と追い口を作ることができ、トレントを伐採することができた。
が、それは相手の幹が太すぎなかったというのが成功した一因ではないだろうか。
さっきの相手は杉の木タイプのトレントで、大木ではあるもののそこまで巨大な太さをしていなく、また、木の枝が横に広がるタイプでもなかった。
太すぎず、枝攻撃のリーチが長すぎないトレントだったからこそ、俺は伐ることができたというわけだ。
逆に言うと、ブレナンパーティーが戦ったカエデの木のような横に広がるタイプのトレントだった場合は、もっと苦戦したか、勝てなかった可能性もある。
トレントはいろんな木のタイプがあるみたいなので、戦う相手は選ぶ必要がありそうだ。
が、逆に普通の木よりも伐りやすいのではないかという気もしている。
というのも、トレントは動く。
本来は動かない木が、枝を振るうために幹ごと体をひねる。
つまり、胴体部をひねる動きを木がするということになる。
うまく受け口と追い口を作ってやれば、その切れ込みが少々浅くとも木自体が幹を捻るような動きをすることで、自らの重みが切れ込みに集中し伐ることができるというわけだ。
剣や槍のような魔物相手の武器だと戦いにくい相手かもしれないけれど、斧を使う木こりであれば、トレントは伐り倒しやすい相手なのかもしれない。
「ちょっと積極的に狙ってみるかな?」
木こりはトレントと相性がいい、かもしれない。
これが正しいかどうかは、試してみないと分からない。
俺は自分が考えたその仮説が正しいかを証明するためにも、再び魔境の森の中を移動し、トレントを探すことにしたのだった。
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